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act.2

 君との思い出の一つ一つが  忘れられない宝物。  *****  あれは、小学校のキャンプの時のこと。  近所の子供と大人が、全部で10人くらい集まって行った、夏休みの思い出作りのイベント。  今でもハッキリ覚えてる。 『明っ!!』 『ゆうと……ッ、ゆうとっ!!』  抱きついてきた温もり。  涙声。  最後に見つけた、笑顔。  ----好き。  あの日あの時、自覚した感情。  楽しいキャンプが悪夢にすり替わったのは、昼食を食べた後の遊びの時間。  遠くに行ってはダメ。  危ないことも、もちろんしてはダメ。  そんな約束に頷いた、1時間ほど後のこと。  ズキズキと、足が心臓にすり替わったような錯覚で目が覚めた。 「い……った……」  足に手をやって、濡れた感触。  ギクリとしながら手の平を見れば、血に濡れていて。 「----っ」  驚きながら痛い足を見れば、今までに見たこともないほどの出血。  あの崖から落ちたのだと、思い至ったのは泣きながら顔を巡らせてから。 「だ、れか……っ……誰かいないの!?」  泣いても喚いても、誰も応えてはくれない恐怖。 「ゅうと……ゆうとー……」  恐怖の中でひたすら呼ぶ、幼馴染みの名前。  足の怪我のせいで、動くこともままならない。  呼んでも、誰も来ない。  ----恐怖。 「ぁ……すけて……っ……助けてよぉっ」  大声で泣きながら、ひたすらに思い描くのはアイツの笑顔で。 「ぅと……っ……ゆうとっ」  何分、何十分、何時間。  どれだけの時間が経ったのか。  もうこのまま死ぬんだと、泣きながら思い浮かべたその淋しさに、最後の叫びを唇から零そうとした時だった。 「明っ!!」  ずっとずっと思っていた声と、顔。 「ゅぅ、と……ッ、結人っ!!」  動かなかったはずの足が動いて。  気付いたときには腕の中。 「心配しただろっ!?」 「ゅぅっ……結人っ」  恐かったと、叫びながら。  縋った腕の温もりに、感じていたのは言いようのない安堵。 「明……。----もう平気。大丈夫だよ」  泣きじゃくる背をあやす手の平が、優しかった。  ***** 「ゆーとー」 「……何?」  ばぃん、と遠慮無くドアを開けて入ってきた明の姿を認めて苦笑。 「遊び行こ」 「は?」 「海!!」 「……はいはい」  唐突な誘いはいつものこと。  そんな風に割り切って苦笑しながら頷けば、にっこりと嬉しげに楽しげに笑った明が、早く早く、と急かす。 「楽しそうだね?」 「楽しいよ? だって……っ」 「? だって?」 「あー…………何でもない」  ふぃっ、と明らかに何かを隠す様子の明を、意地悪くつつく。 「何だよ言えよー。隠し通せると思ってんの?」 「ぅー……」 「……言わないんだ?」  にっこり笑ってから、幼いときと同じように、こちょこちょとくすぐってやる。 「ふはっ……ちょっ……ヤメッ」 「言う?」 「…………ヤダ」 「じゃ、ヤメない」 「ちょっ……ゅぅとっ……ふふっ、……はっ、も……ちょっと!」 「言う?」 「…………」 「言わないんだ?」 「言う言う!!」  だからもうヤメて。と笑い泣きしながら言うのに、尊大に笑ってみせたのに。 「で? 何隠そうとしたの?」 「……ゆーとが……」 「オレが?」 「ちゃんと笑ったから」 「…………ぇ?」  予想もしていなかったその言葉に目を見張った。 「……最近……無理して笑ってるみたいに見えたから……。……でも、さっきは、ちゃんと笑ってた」 「明……」 「……だから、楽しいなって言うか……嬉しいなって言うか……」  もー、照れるから終わり。  そんな風に笑って話を終えるのに、今度こそ嬉しい笑みを浮かべてから、ありがと、と笑った。  助け合える。喜び合える。励まし合える。  そんな関係。  これから先も、ずっとそう在れたなら。  それだけで幸せなのに。 『……急な話なんだけど……』  思い出しかけた言葉を、今は置け、と頭の片隅に追いやって。 「ぅはー……気持ちいー……」  ズボンの裾をたくし上げて足だけ海水に浸けながら、満足そうに波と戯れる明を優しく見守る。 「やっぱ海いーな!!」 「そーだな!!」  テンションの高い明に苦笑しながら頷く。  こうしていると忘れられる。  これからの、ことを。  今までだって、そうだった。  嫌なことや辛いこと、哀しいことも明と一緒にいられたら、どうでも良くなった。  大好きで。  心地よくて。  ほんの少しだけ苦いこの関係を。  果たしていつまで続けていられるんだろう。 『……ごめんね。だけどもう、決まったことなの……』 『そん、な……』  無力なオレは、いつまで君といられるだろう。 『……我慢して』 『……』  10年後も、今と同じに笑っていられるかな? 「…………とう、きょう……」 「ん? 何?」 「……ううん、なんでもない……」  誤魔化すように笑ってから、自分もばしゃばしゃと海に入って波を蹴る。 「ぅわっ何すんの!? かかるでしょ!?」  喚く明に、ふふん、と笑えば、同じように笑った明がこちらに向けて水を掛けてくる。 「ちょっ……オレ、軽くやっただけじゃん!」 「自業自得」  笑い合う。  びしょ濡れになっても気にしない。  楽しくて楽しくて。  ----泣きそうだ。  どうしてこんなにも、無力なの? 『2学期からは、東京に行くから』 「ヤダよ」  ずっとずっと明と。  こうしてバカみたいに。  無邪気に戯れていたい。

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