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第2話

ある日を境に、僕は検査がとても怖くなった。 それは、先生の前で裸になるのがとても恥ずかしく感じるようになったからだ。 それに、以前までの検査に加えて、時々先生は僕の大切な所に触れて、どんな気持ちになるかを問うようになった。 すると、とても恥ずかしくていけない事をしている気分になるんだ。だって大切な所に触れるなんて、そんなの汚い。 ベンジーはまだ、その検査は受けてないと言ったけど、トニーはもうとっくに検査は済んで、夢精もしたと鼻高々だった。 夢精って?と聞いたら、「大人になるって事さ」と、はぐらかされて、僕は余計に不安になった。 コロニーには、僕たちと先生たち、そして見守りをする何人かの他に大人は誰もいない。 ここで、子供から大人になった子は1人もいないんだ。 大人になると、コロニーを卒業するんだって噂があって、昔いたお兄ちゃんやお姉ちゃんは、いつのまにか1人ずついなくなっていった。 今の年長はトニーで、もしかしたらトニーもいなくなるんじゃないかと思うと、それもとても怖い。 トニーの次は、リッキー、フレッド、そしてその次が僕だ。 「ルディ、検査の時間だよ」 部屋のベッドの上でシーツをかぶって、考え事をしていると、先生が呼びに来た。 今日の検査の時間だ。 「はい、ドクター」 「グッドボーイ、今日もルディはいい子だね」 気乗りしない僕は、シーツを被ったまま、のろのろとベッドを降りる。 コンクリートの床が痛いくらい冷たくて、つま先を立てて歩くのを先生はにこにこと笑顔で待っていてくれた。 「ドクターテディ、抱っこして。足が凍るくらい冷たくて、歩くととても痛いんだ」 「ルディはいつまでたっても甘えん坊さんだ」 おいで、と大きな手を両手を広げて僕を抱きかかえる先生はとても温かい。 「本当だ、とっても冷たい。寒かったかい?」 「うん、とても」 「検査が終わったら、ホットミルクを淹れてあげようね」 「ほんと?」 「これまで僕が、ルディに嘘をついた事があったかな?」 「ううん、ないよ、ない」 「だったら今日、ルディは確かにホットミルクが飲める、そうだね?」 「うん!」 翌日、僕は初めて──。 朝起きると、シーツが白く汚れていた。 朝の見守りの人が、その事を確認してすぐに先生を呼びに行った。 僕は、汚れたシーツの上に座ってがたがたと震える体を抱いていた。 だって、夢精は大人になるという事だとトニーは言っていた。 だけどまだトニーはいたから、すぐにここから追い出されるなんて事はないと思う。 でももしかしたら、そそう(・・・)をした僕を見て先生は悪い子だと言うかもしれない。 先生は悪い子はきらいだ、もう面倒を見きれない、と言うかもしれない。 考えたくなくても、そんな事が次々に溢れだして、とても怖かったんだ。 なのに、息を切らして部屋に飛び込んできた先生は言ったんだ。 「グッドボーイ、ルディ。ルディ、グッドボーイ、とてもいい子だ。これで一歩、大人に近付いた」 がたがた震える僕をぎゅうぎゅう抱き締めて、わしゃわしゃといっぱい頭を撫でながら、いっぱい褒めてくれたんだ。 「ッ、く、ぅ……、グッ、ドっひ、っぼー、い?」 「そう、グッドボーイだルディ。大丈夫、わるい事じゃないんだよ」 「うっ、ぅ、…ドクっ、タぁテディっ、うっく、……ぼ、く……っ、ひ、わる、っ子……な、っい?」 「ノー、ベリーグッドだ、ベリーグッドだよ、ルディ」 グッドボーイ、ベリーグッドと褒めながら僕が泣き止んで落ち着くまで先生は抱き締めていてくれた。 優しい、僕の、ドクターテディ。

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