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第5話 Dr.T
精液は液体成分精漿、そして細胞成分精子で構成される。
さらに分泌液として分析すると、3割程度が前立腺液、そして7割が精嚢からの分泌液。そこに精子が加わったのが精液だ。
精嚢分泌液には果糖が多く含まれており、栄養源のない精子のエネルギー源となっている。前立腺液にはクエン酸が多く含まれ、弱アルカリ性を維持することで精子の生存率を大幅に上げる。
着目すべきは、前立腺液には他にもたんぱく質分解酵素、セリンプロテアーゼが含まれている点だ。
これには更に前立腺特異抗原と呼ばれる酵素が含まれている。
粘度調整を行う物質であると考えられているが、どういう機能を担っているのかは未解明である。しかし、確かに抗原性を持つ。
抗原性を持つという事は、免疫細胞上の抗原受容体と結合し、免疫反応を引き起こす事が可能だと仮定する。
そしてこれもあくまで仮定だが、ヒートがαないしβ、そして同種のΩのフェロモンによって誘発されるものだとしたら、
免疫効果にも期待が出来るのではないか。
Ωが発情するからαが欲情するんじゃない、αが誘発する生理現象がヒートで、ヒートによってαが欲情する、相乗効果──、いや列記とした生殖活動のサイクルだ。
それは逆説的に、αをはじめ他者がいるからΩはヒートを起こす、という説にも繋がる世界的大発見だ。
他者のフェロモンを異物として認識すると同時に、周期的な発情期──ヒートが誘発されるのであれば、
精液に含まれるセリンプロテアーゼと、分泌されるΩフェロモンがもしも結合するのであれば、
免疫反応を利用してヒートを抑える事が出来る。
現在の試薬は、黄体ホルモンが単独で配合されたものだ。
そして以前の試薬は、卵胞ホルモンが単独で配合されたもの。
その両方を配合すれば──、
──、経口避妊薬、そうだ。
αの女性だって使用しているじゃないか。
なぜそんな初歩的な事に気付かなかった。
なぜ今まで何人ものドクターがそんな事にさえ気付かなかったんだ。
はた、と閃いたテディはすぐさま既存の経口避妊薬の発注を掛け、席を立つ。
鉄製の重厚な扉を開けると、診察室に拘束された状態で横たわるルディ。
初回のヒートの持続力は決して長くない。
数時間で終わるものから、少量のフェロモン分泌で一日程度で終わってしまう事が多い。
故にこれくらいなら、と甘く見るΩも少なくない。
問題は次回以降のヒートだ。
それこそが世を騒がし、世のαを不安に陥れる元凶となっている。
今、麻酔によってすやすや眠るルディは、二度の強制射精と鎮静剤の効果も相まって、私を欲情させる程のフェロモンは分泌していない。
フェロモン計測器の数値も、非常に少ない数値を維持している。
だからと言って決して安心は出来ないが、ルディに歩み寄り跪いて頬を撫でる。
「グッドボーイ、ルディ。私の未来の伴侶。次のヒートで成果を上げよう」
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