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第7話

そうして僕は、先生の処置室で過ごすようになった。 先生は隣の研究室で、僕の病気について研究しているんだそうだ。 鍵が付いた金属製の枷はいつまで経っても慣れないし、いつまで経っても重たいけれど。 毎日決まって16時にピンク色の小さな粒状の薬を飲まなくちゃいけないけれど。 僕はきっと大丈夫。 だって、僕の担当医はドクターテディ、とても優しい先生だから──。 午前8時に朝ごはんを食べて、9時から朝の検査。 12時のお昼ご飯まで、僕は勉強をする。 国語、算数、理科、社会。 初等部というレベルらしいけど、僕は時々わからなくて、お昼の検査の時にドクターテディに質問できるようにノートに沢山書き留めるんだ。 お昼を食べたらまた検査をして、その後は本を読んでお昼寝をする。 ブレーメンの音楽隊、不思議の国のアリス、はかだの王様、赤いくつ。 助手のベティから薬を貰って飲んだら、夕飯を食べて夜の検査。 お風呂に入って、その後は、酸素マスクをつけてもらって眠るんだ。 酸素マスクをつけると、すぐに眠たくなって、そのまま朝までぐっすり眠れるの。 そんな生活がもうやがて1ヶ月に差し掛かる頃、ベティが水色のお薬をくれた。 「いつもはピンク色のお薬なのに、どうして今日は水色なの?病気が悪くなったの?」 「いいえ、ルディ。経過は順調よ」 「じゃあどうして?どうしてお薬の色が変わるの?」 「ルディ、よく聞いてね。お薬は毎日16時に飲まなくちゃいけないとドクターに教わったわね?」 「はい、ベティ」 「いい子ね、ルディ。ピンク色のお薬は21日間毎日飲むの、そしたら7日間、飲むのをやめなくちゃいけないの」 「どうして?」 「そうね、──……、」 「ごめんなさい、ベティ。困らせて──。僕飲むよ、水色のも」 「ありがとうルディ。これから7日間、水色のお薬を飲んだら、またピンク色のお薬に戻るから心配しないで」 「……はい、ベティ」 困った顔をするベティを見て、わるい子だと思われないように僕は水色の薬を流し込んだ。 それから、またピンク色のお薬も飲まなくちゃいけないと聞いて、少しだけ気分が落ち込んで悲しくなった。 だってお薬を飲んだ後はいつも少しだけお腹がムカムカするんだ。 時々お腹も痛くなって、苦しくなったりするんだ。 だから僕は早く僕の病気が治りますように、って毎日神様にお祈りしているんだよ。 なのに僕はまだ、病気のままなんだ。 だって、前よりも、うんとずっと、ドクターテディに会いたいんだ。 ドクターテディの検査の時間が、ドクターテディが僕を見つめていてくれる時間が少しでも延びますように、ってノートにいっぱい質問を書いて時間稼ぎをしているんだよ。 それくらい、大好きがいっぱい溢れるんだ。 前はそんな事なかったのに。 日に一度の検査の時間だけ会えるのがただ、楽しみだったはずなのに。 水色の薬を初めて飲んだ日から、数えて3日目の朝。 ずん、と体に重たい何かがのしかかってくるような、鈍い衝撃で僕は目を覚ました。 目を覚ました筈だった。 開いている筈の目は、いつもの天井を映さない。 映すのはがざがざの世界。 色んな色のクレヨンで塗りつぶしたみたいな、ごちゃごちゃな世界が、一番に目に入った景色だった。 遅れて、ピンポン──ピンポン──と、胸にざわつきを覚える電子音が聞こえる。 「っぁ、う……──、あ、……っ、ううぅ、う、」 胸を掻き毟りたくなるような、遠くから恐ろしい怪物が這い寄ってくるのに、逃げられないみたいな、焦燥感。 それでいて、お腹の奥が沸騰するみたいに熱くて、頭の中が蕩けちゃったみたいに何も考えられなくなる。 でも、遠くから恐いものが来るんだ、もう近くまで来てるんだ──ほら、すぐ、ほら、見て、もうすぐそこまで────。 「ッあう、うぅ、あァァ゙ッ、や、ら、やら、くりゅ、くりゅ、やぁ、ああああ───、」 「──、ベティ。計画通りに実行するよ。君はこれから少なくとも三日三晩、この部屋に決して入ってはいけない。入るのは、必ず僕のパソコンで、Ωフェロモンの値を確認して、安全を確認してからだ。いいね?」 「はい、ドクター」 「これから君が行う仕事は2つ。まず、ルディの首に鉄の首輪をつけて絶対に外れないように施錠する事。そして、この部屋に外から鍵をかける事」 「はい、ドクター」 「っは、どく、た、てでぃ──っ!てで、あちゅ、ああああああ──、ぐちゃうちゃ、ぼく、うちゃ、うちゃ、どく、たああああああああ──!」 「そしてどうか、私がルディをレイプする事を、許して欲しい──。では、始めて」 馬乗りになった黒い影が、全体重を掛けて僕の自由を完全に封じた後で、首に冷たくて硬いものが嵌められる。 それはガチャンと音を立てた後で、カチャリと小さな音を立てた。

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