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第10話
ドクターテディは今日も来ない。
今日も僕の検査はベティが行う。
仰向けに寝ているだけで、ベティの検査は難なく終わる。
「ルディ、気分はどう?」
「………」
「ルディ?」
「──……ドクターは?」
「会いたい、ですか?」
「………」
カルテにペンを走らせるのを止めてベティが僕の顔をじっ、と見詰める。
聞いたのは僕の方だけど、いざ会いたいかと聞かれるとよく分からなかった。
会いたい、とても会いたい、でも会いたいのは優しい先生、ドクターテディ。
寝返りを打ってベティに背中を向けて目を閉じる。
ギラギラ光る瞳と、荒い呼吸。
何度嫌だと叫んでも、何度やめてと叫んでも、何度も僕の中をぐちゃぐちゃにした、──あれは本当にドクターテディ?
壊れちゃいそうだった。死んじゃいそうだった。
苦しくて、何回も息が止まりそうになった。
世界を真っ白にしたり、真っ黒にしたり、忙しなくて。
僕の中からぐちゃぐちゃ音がして、肌と肌がぶつかる音が響いて、
遠くから怪物がくるんだ──。
その事を思い出すと、とても怖いのに、恐ろしいのに、──。
あの時みたいに、僕の恥ずかしい所が、熱くなって──。
中からとろとろしたのが、あふれるんだ、──。
ピンポン──ピンポン──。
水色の薬を飲んだ日から、数えて3日目の朝。
僕は聞き覚えのある音と共に目を覚ます。
この音がする時、僕はとても苦しい。
ぼやぼやと世界がとても曖昧になるんだ。
そして、ドクターテディの事で頭がいっぱいになる。
怖いのに、怖くて怖くて泣き叫びたいのに、──。
あの日みたいにドクターテディに、ぐちゃぐちゃにされたいと思っちゃうんだ──。
「っ、ふ──、てでぃ、テディッ、ドクタ、ァ──!」
「ルディ、」
ベティ、だ。
防護服を着たベティが、僕の足を大きく開いて、中にチューブを差し込んだ。
ずずず、と奥の方まで進むチューブが、一番奥に刺さる。
それでも挿入され続けるチューブが、硬く閉じた器官の入り口を強引に割って侵入した直後に、内臓を抉られるようなざらついた激痛が走った。
「い゙ィ、っ─、っ、たい!──めてッ、痛い、ッ!、い゙た、い」
「、──」
じくじくと痛むから、太腿を擦り合わせてどうにかチューブを抜こうとするけど、テープで固定された所為で抜けない。
手で引き抜こうとするけど、──届かない。
次の瞬間には、ちゃらちゃらと水の音が遠くに聞こえて、液体が僕の中に流れ込んだ。
「い゙ッ、っ、めた、い゙──、中ッ、づめ゙だァ、ッ!……ドクタっ──ァ!」
「沈静。35時間です」
「誘発剤投与」
「了解」
遠くで、声が聞こえる。
ベティと、ドクターテディ──。
あ、ドクターテディの匂いがする。
ピンポン──ピンポン──。
ドッ、と心臓が大きく跳ね上がって目の前が赤く染まる。
やっと落ち着いたのに、どうして──。
まだ、水色のお薬は飲んでないよ、なのに、どうして──。
「誘発成功しました」
「セリンプロテアーゼの注入を続けて」
「了解」
「沈静。27時間」
「誘発剤投与」
ピンポン──ピンポン──。
「沈静。21時間」
「沈静。34時間」
「沈静。19時間」
「沈静。7時間」
「沈静。18時間」
「沈静。4時間」
「沈静──、」
長い長い暗闇の合間に、時々声が聞こえては電子音が鳴り響いて、また深い暗闇に突き落とされた。
寝ているようで起きていて、起きているようで寝ていて。
ドクターテディの匂いがすると、何度も心臓が跳ねて、何度も目の前が赤く染まる。
その度に中に、液体が注がれた。
そして、やっと、やっと────。
目を開く。
「グッドボーイ、ルディ」
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