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Love letter
親愛なるルディ──、改め、親愛なるテディに送る。
まず初めに私は君に謝らなければならない。
一つ、君の意思を無視して君をレイプしてしまった事。
二つ、別れ際に暴言を吐いた事。
三つ、君をルディと呼んだ事。
すまなかった。
君をレイプしてしまった事に対して、私は謝罪以上の言葉が出ない。
どうしても研究に必要な行為だったと正当化する事は容易い。
けれども、君には相当な負担と、精神的ダメージを与えてしまった。
本当に、申し訳なかった。
そして、別れ際の暴言について──。
こちらも弁明の余地はない。本当に、申し訳ない。
君とベティを正式な方法で、正式に退所させる術が他に見当たらなかったんだ。許して欲しいとは言わない、どうか、私ごと忘れて欲しい──。
都合が良いのはわかっている。君は本当に私を慕ってくれた。本当に感謝している。ありがとう。
だからこそ、これ以上君に苦痛を与える事を控えたかった。今はまだ、わからなくてもいい。わからなくても、しょうがない。
あの悪夢のような実験を、まだ小さく幼い君に継続して行っていく事に、私は限界を感じた。
一時的であっても心神喪失状態にある事で、君が正式に、そして安全にこの施設を離れる事が出来るのであれば、私は悪にだってなろうと思った。
連続で誘発されたヒートの後で、倦怠感や疲労感、そして満たされない不満、いつまで続くか分からない不安を抱き、情緒が不安定な状態での言葉は身に沁みただろう。
痛く、辛く、悲しかったろう。
すまない、本当にすまない。
それから、君の正しい名は、「セオドア・バートン」。通称テディ。セオドア──神の贈り物、という意味だ。とても良い名だ。両親はきっと君をとても大切に思って授けてくれたんだろう。
君は私をドクターテディと呼び慕ってくれたね。けれど、テディは君の名だ。名前を取り換えっこしていたんだ。
なぜかと言うと、この国ではΩという人種がαという人種を気安く呼ぶ事を禁じられているからだ。だったら、名前を取り換えてしまえばいい。そうする事で本来の名前を呼び合わない事で、法の裁きを受けずに済む。
それに、1人のドクターは何人ものΩを相手にする。
君も、僕にとっては3人目の──ルディだった。
その時、決して呼び違えないように、そう施設で決まっていたルールだった。
ルディ、そう呼ばれていた頃の事は、どうか忘れて──。
テディやテッドとして、新しく、そして正しく生きて欲しい──。
ベティは非常に優秀な助手であり、心優しい女性だ。そしてアンチΩマニアのように差別的ではない。
どうか、これからも存分に頼りにするといい。目一杯甘えるんだよ。
すそを掴むだけじゃダメだ、「そばにいて」としっかり言葉にしなくちゃいけない。
胸を借りて泣く日があってもいい。理由もなくそばにいて欲しいと願ってもいい。
それは決して、悪い事じゃないのだから。
私は彼女に、2つ提案をした。
1つは、ベネディクトのΩ保護施設へ行き、ベティは指導員として新たに就職、君は就労支援を受けながら就労する事。
2つ目は、レオルニド──、私の故郷で隠居生活を送る事。私の故郷は、人種差別に非常に疎い街でね。海に面しているから、異国の人が多く出入りする。駅もある。それでいてとても小さな街なんだ。
そこに、私の生家がある。今は誰も住んでいない。そこを君とベティに譲り渡したい。
私はこれから、君の協力のお陰で形が見えた新薬の開発に勤しむつもりだ。
トニーは既にドクターアルフの番になっている。フェロモンの変異が見られる為、君より苦痛なく実験に協力する事が出来るだろう。
もしかしたら、最後に君は、トニーと入れ違ってしまったかもしれない。
これはここだけの話で、推奨されるべき事ではないが、──。
トニーはこの施設で一生を終える。ドクターアルフの12人目の番として、籠の中の鳥のように生きるんだ。
君は、そうじゃない。
今はまだ小さな羽かもしれないが、いずれは立派な羽になる。君はとても素直で、とても良い子だ。
自由に生きて。
その青い瞳のように、真っ青な幸せを呼ぶ鳥の様に──。
グッドボーイ、愛しい小さなお坊ちゃん。
──グッドボーイ、テディ。
αばかりに都合のいい、この実験に付き合ってくれてありがとう。
ルドルフ・W・シェパード
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