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(03) 保護

「あれ? どこだっけか?」 アラタは路地をキョロキョロしながら呟いた。 小腹がすいたので、コンビニにでも寄ろうと思ったのだが、どうやら迷子になったらしい。 アラタは、それ気が付いてため息をついた。 「参ったな……」 そこへ何やら揉めている声が聞こえてきた。 「ねぇ、君。可愛いね。この辺の子じゃないのかな?」 「離して下さい!」 「可愛い制服だね。お兄さん達といい事しようか?」 「や、やめてください!」 低い男の声が二つ。 それに、女? いや、男の子? か? アラタは、目を細めた。 そして、瞬時に状況を把握した。 男の子が男二人に絡まれている。 アラタは、肩をぐるりと回しゴリゴリと骨を鳴らした。 「ちょっと、通してもらえるか?」 アラタは、男二人の間に割って入った。 「あんだ? お前は?」 突然の侵入者にいきりたつ男達。 絡まれていた男の子が叫んだ。 「あっ、河原にいた、おじさん!?」 「おじさん? おじさんじゃねぇよ!」 アラタは、そう恫喝したが内心驚いていた。 セーラーに半ズボン。間違いない。 こんな所にいたのか……。 ホッとするのも束の間、男の一人がアラタの肩に手を掛けた。 「おい、お取り込み中悪いが、俺らはこの子に用があるわけよ。オッサンは黙って消えな!」 殴り掛かる男達。 「おじさん! 危ない!」 男の子の声。 しかし、アラタをどうにか出来るような相手ではない。 アラタは、中学時代から空手部でトップを張ってきた強者。 アラタは、見切りで二人の拳を交わすと、渾身の拳が空を切った。 ブォン! わざと外した正拳突き。 その轟音で、いかに素人でもそのヤバさに気が付いた。 「な、こいつ強えぞ!」 「クッソ! てめぇ、覚えてろよ!」 捨て台詞を吐いて逃げ出す男達。 アラタは、ホッとため息をついた。 素人相手に、拳を使うのはよしとしない。 根っからの格闘家である。 しばらく、あっけに取られていた男の子は、ハッとして状況を把握した。 そして、嬉しそうに言った。 「やあ! おじさん。また、会えたね!」 アラタは冷静に言った。 「お兄さん、助けてくれてありがとうございました」 男の子は、アラタの言葉は無視して腕を引っ張る。 「おじさん! 泊めてよ! いいでしょ?」 アラタは、もう一度繰り返した。 「お兄さん、助けてくれてありがとうございました」 男の子は、ちぇっ、仕方ないなと頬を膨らませて言った。 「お兄さん、助けてくれてありがとうございました。はい、言ったよ! じゃあ、泊めて!」 「なぁ、君……」 アラタは呆れ顔で言った。 男の子は動じない。 「あっ、僕の名前はユウキ。ユウキって呼んでよ!」 「……なぁ、ユウキ。いいかい? もう夜遅いから、お家に帰りなさい。お父さん、お母さんが心配しているから。それに、見ず知らずの人に泊めて貰うなんて危ないからよしなさい。いいね?」 アラタの言葉に、ユウキは急に暗い顔になり下を向いた。 「お父さん、お母さんなんて僕にはいないから……帰る家だって! うわぁん!」 突然泣き出したユウキに、アラタは面食らった。 慌ててフォローを入れる。 「な、まじか。それは済まなかった。俺が悪かった。許してくれ、ユウキ。じゃあ、警察に行って保護して貰おう! なっ!」 ユウキは、差し出したアラタの手をパッと払い除けた。 「やめてよ! 警察なんて!」 「へ? どうして?」 「どうしても! ほら、おじさん! 僕、お腹が空いているから、何か食べさせて!」 すっかり威張り気味のユウキ。 アラタは、何だよ、泣いたふりかよ。と舌打ちをするのだが、確かに腹が減ったな、とお腹を押さえ手を差し出した。 「ったく。しょうがねぇなぁ。行くぞ、ユウキ!」 「うん! おじさん!」 ユウキは、アラタの手をギュッと握った。 二人は、アラタの家に着くと早速夕食を取った。 二人ともお腹が空いていたのだろう。 途中立ち寄ったスーパーの弁当は、あっという間に平らげてしまった。 ユウキは、麦茶をゴクゴクと飲み干すとテーブルにグラスを置いた。 「ねぇ、おじさん」 「ん? 何だ?」 「おじさんって、ホモなんでしょ?」 突然のユウキの言葉に、アラタはびっくりしてビールを吹きそうになった。 「ぶっ!? お、お前な!」 「別に隠す事ないと思うけど……」 ユウキは、空のグラスを覗き込む。 「お前、もしかして、最初からそれを知ってて俺に声をかけたのか?」 「ふふふ。違うよ。おじさん、ラブホテルに男の人と入って行ったからさ」 「な、お前、見てたのか? というか、俺を付けていたのか?」 「どうかな? うふふ」 ユウキに付けられていた、その事実にアラタは驚愕した。 河原で出会ってからの行動は、家に戻り、ミノリと酒を飲んで、ホテルに行って、そして再び家へ。 その間ずっと付けていたという事になる。 余程、他に当てが無かったのだろう。 アラタは、ため息をついた。 「まぁ、いい。今晩だけは泊めてやる。明日は、ちゃんと警察に行くからな!」 「やった!」 「聞いていたか? 明日は警察に行くんだぞ?」 「うん!」 満面の笑みのユウキに、アラタは再度ため息をついた。

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