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(08) 約束

「もう、おじさん! おじさんの番だよ!」 アラタは、ハッとした目を開けた。 手にはトランプの札。 目の前のユウキは、目をキラキラとさせている。 そうだ、ユウキが遊びに来てトランプをしていたんだな。 アラタは、その事実を思い出した。 「お、おう! じゃ、これな」 アラタは、手にしていた一枚のトランプを場に出した。 すると、ユウキは大声を上げた。 「ドボン! ははは。僕の勝ち!」 ユウキの上がり札を確認して、アラタは頭を抱えた。 「また、負けた!」 「おじさん、弱いよ!」 ユウキは得意気に言った。 アラタは時計の針を見た。 「さぁ、ユウキ、風呂に入って寝ようか?」 「うん!」 「フンフンフン!」 ユウキは湯船につかると、直ぐに鼻歌を歌い始めた。 とてもご機嫌な様子。 アラタはそんなユウキを微笑ましく眺める。 「楽しそうだな、ユウキ。何かいい事でもあったか?」 「うん! 今、図工の授業でね、紙粘土でお父さんお母さんの像を作るんだけど、おじさんをモデルに作っているんだ!」 「ぶっ! 俺をモデルにか?」 「そう、おじさん! すごくうまく作れているんだ! だから楽しみにしててよ! あははは!」 「ははは! 了解!」 アラタは心から笑った。 何が嬉しいって、ユウキがこんなに楽しそうな笑顔をしている。 アラタはそれが只々嬉しいのだった。 「暗くするぞ」 「うん」 部屋の灯りが消えた。 二人同じ布団の中。 触れた所から互いの体温が伝わる。 言葉に出来ない心地よい気持ち。 安心……。 二人はそれを感じ取っていた。 しばらくして、ユウキはボソッと言った。 「ねぇ、おじさん。僕、おじさんのうちの子だったらよかったな」 「ん? ここにいる時はそう思っていいぞ」 「なら、おじさん。キスして?」 「いいよ。ほら、おいで」 アラタはユウキの体を引き寄せると、唇にチュッと軽くキスをした。 「おやすみのキスだ。ゆっくり眠るんだぞ」 ばっ! ユウキは返事をする代わりに、突然、跳ね起き、二人の上掛け布団をはがした。 そして、アラタの体を跨いで乗っかると、力いっぱいのハグをした。 アラタは、どうしたんだ、とユウキを引きはがそうとしたが、ユウキはガッチリと抱き付いて離れようとしない。 ユウキはアラタのシャツに顔を埋めて言った。 「おじさん、あのラブホテルに行った男の人と付き合っているの?」 「ん? どうかな」 「ねぇ、おじさん。僕にも同じ事して? あの男の人と同じ事」 「バカ! そんな事、出来るかよ!」 アラタは怒り口調で言った。 ユウキは構わずに訴え続ける。 「子供になれないなら恋人になりたいんだ。お願い。僕、ひとりぼっちは嫌なんだ。おじさんとの絆が欲しい。家族になりたい」 「そんな事……」 「おじさん、男の人を好きなんでしょ! 僕だって男なんです! お願い……」 最後のユウキの言葉は涙交じりだった。 咳き込み、すすり泣く声に変わる。 アラタは、ミノリの言葉を思い出していた。 『抱いてあげて下さい』 こういう事か。あいつにも同じような経験があったのかな? アラタは、冷静に言った。 「ユウキ、いいから離れなさい」 「おじさん! お願い! 僕を抱いて下さい!」 必死に懇願するユウキ。 アラタの胸に突き刺さる。 ユウキの境遇を考えれば、そんな考えに行きついても仕方がない事なのだ。 だからといって、ダメなものはダメだ。 アラタは、心を鬼にして叱る。 「バカ!」 「だって……うっうう」 アラタは、一転して優しい口調で言った。 「ごめん。ユウキ。俺は、お前を抱くことは出来ない」 「うっ、うわぁん」 ユウキは再び大泣きを始めた。 アラタはユウキの頭を優しくなでる。 「でも、ユウキ。俺とお前は今から家族だ。約束しよう」 「約束?」 「ああ、約束だ。俺は今日からずっとユウキの事を家族だと思う事にする。そうだな、義理の息子。どうだ?」 ユウキは、腑に落ちずアラタに聞き返す。 「おじさんの恋人にはなれない?」 「いいや。なれるよ。お前が大きくなった時、まだ、おじさんと恋人になりたかったらその時は契りを交わそう」 「ほんと?」 「本当だよ」 アラタの言葉に、ユウキは目を輝かす。 その瞳には、強い意志が宿っている。 「じゃあ、僕は、おじさんが大好きになるような男になる!」 「ははは。無理をしなくていいよ」 ユウキはアラタの体から離れると、アラタを引っ張り起こした。 そして、アラタに言った。 「じゃあ、おじさん。指切りしよう! これは婚約と同じだからね!」 「婚約って……ずいぶん難しい言葉を知っているな」 「そんなの当たり前だよ。今の子はませているんだ!」 「自分で言うなよ! あはは。まぁ、いいか」 二人、小指を出し合った。 そして、歌を歌いだす。 「ゆびきりげんまん嘘ついたら……」 ユウキは満足そうに布団に入った。 アラタは、ユウキに声を掛けた。 「さぁ、今度こそ、ちゃんと寝るんだぞ!」 「はい、お父さん! 大好き!」 「ああ、ユウキ。父さんもお前の事が大好きだよ」

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