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第5話 祓戸の神⑤うちの神さま

(うた)、言いにくいんだが、お前に言わなきゃいけないことがある」  祓戸(はらえど)が切り出した。 「僕に言わなきゃいけない、言いにくい、こと?」  詩は身構える。  鳥居の前の道を車が通り、祓戸の神の背後から後光が射して見えた。  彼がゆっくりと口を開く。 「商売繁盛、お前の願いはそれみたいだが……」  確かに詩は何度となく彼に手を合わせてそれを願っていた。 「神だってなんでもできるわけじゃない。領分ってものがある」 「りょうぶん……?」 「俺は祓戸の神。災いや(けが)れを(はら)うのが専門だ」 「……それはつまり……」 「俺に商売繁盛を願っても無駄だ」 「……あ~……」  詩は思わず頭を抱えた。 「待って! でもちょっとくらいは――」 「ちょっとも無理!」  神が遮るように言う。 「お前だって野球選手から“ホームラン打たせてください!”って手を合わせられても困るだろう」 「それは困りますね」 「そういうことだ」 「いや、でも、えーっと……?」  毎日神棚にお水とご飯、それにお酒も供えて。あれば果物やお菓子もそえて。ソンミンに眉をひそめられても疑わず、信じて祈ってきた自分はなんだったのか。  それを思うと気が遠くなった。 「おいっ、大丈夫か? 詩」  ふらふらとベンチに座り込む詩を、祓戸が気遣った。 「すみません……」  彼に背中をさすられていると、お米と日本酒のいい匂いがしてくる。間近に見る神の顔は精悍(せいかん)で、健康的な肌つやをしていた。  貢ぐ相手を間違った。それは確かだ。けれど……。  一方で、自分の家の神さまがこの神だったことに、なんともいえない胸の(うず)きを覚えた。

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