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第13話 疱瘡の神①たぶん神さま

(卵にパセリ、ついでにチーズとクレイジーソルトも買っておこう……)  スマホの買い物メモを見ながら、詩はお昼の通りを歩いていく。  今は珈琲ガレット調布店も営業中の時間だが、詩は店をソンミンに任せ、足りなくなった食材を買いに出ていた。  この辺りには安売りスーパーから高級店まで食料品を売る店が多くあり、買い出しには困らない。 (クレイジーソルトはどこが一番安いんだっけ?)  つらつらと考えながら歩いていると、駅前広場にいくつかある円形のベンチに、1カ所だけ人のいないところを見つけた。  昼間の人通りが多い時間帯、この辺りのベンチは取り合いのはずだが……。 「……?」  気になってしまい、歩きながらも凝視する。  するとそこにはあばた顔の若い男が、発泡酒の缶と一緒に転がっていた。みんなは彼を避け、このベンチには座らないんだろう。祓戸とどこか似通った雰囲気のある和装男子だった。 「あの、大丈夫ですか?」  詩は彼の様子が気になり声をかける。  刃物のような切れ長の瞳がこっちを向いた。 「ご気分が悪いんじゃ……」  そう続けると、男は横になったまま詩を見つめ、ほんの数ミリ口の端を持ち上げた。 「お前、俺が怖くないのか?」 「え……?」 「変なヤツ」  客観的に“変なヤツ”は自分より彼の方じゃないだろうか。詩は頭の隅でそう思う。 「ご気分が悪くないならいいんです。それじゃあ、お休み中のところ失礼しました」  行こうとする詩を、男の声が追いかけた。 「おい!」 「はい……」  詩は振り向く。 「お前誰だ?」  男が頬杖(ほおづえ)をついた格好になって問いかけた。 「誰って……」  ただの通りすがりの買い物客だ。詩はそう答えようとして思い直す。 「この近くで珈琲ショップをやっています。機会があったら寄ってください」  エプロンのポケットからショップカードを出してベンチに置いた。 「変なヤツ」  再び男が言う。 「けど、変なヤツは嫌いじゃない」  その口調は思いのほかしっかりしていた。酔っ払いかと思ったけれど、たぶん違う。彼は……おそらく神さまだ。  だらしなく横たわるその人にどういうわけか(りん)とした空気を感じ、詩はもう一度そのあばた顔を見つめた。

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