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第14話 疱瘡の神②神さまと看病

 体調不良というものは突然にやってくる。  普段忙しかったり体力に自信があったりする者は、細かな前兆に気づきにくいからなおさらだ。  詩がまさにそれだった。 (だるい、これ……もしかして熱あるかも……?)  一人暮らしの部屋のベッドからふらりと起き上がり、体温計を探す。  体温計なんて久しく使っていなかったから、どこにしまってあるのか思い出せなかった。 「……どうしよう……」  姿見に映った自分の顔が赤かった。  今日、店を開けるのは無理かもしれない。嫌な予感が増す。  それから重い体で家の中を行ったり来たりし、引き出しの奥から体温計を見つけ出した。  測ってみると、思った通り38℃オーバー。数値はさらに上がり続ける。  詩は体温計が鳴るのを待たず、ソンミンに電話した。 「ミンくんごめん。今日は臨時休業にする。ちょっと熱があるみたいで……」  手短に伝えると、電話の向こうからは慌てた声が返ってくる。 「大丈夫なんですか!? 店長が熱を出すなんて、僕の知る限り初めてです!」 「そうだよね……」  少なくともここ1年は臨時休業なんてしていない。 「風邪ですか?」 「どうかな? 少し様子を見てから病院に行ってみるよ。ともかく今日は、店はお休み。ミンくんもゆっくりしてていいからね?」  この電話で一番伝えたかったことはそれだった。  ところが電話の向こうの彼が言う。 「うちにめちゃくちゃ効く朝鮮人参がありますよ! 前に帰省した時、親から無理やり持たされて……。それ、今から持っていきますから!」  今すぐ家を飛び出しそうな勢いだ。 「ああ、待ってミンくん! 気持ちはうれしいんだけど、ごめん。今は流行病のことがあるでしょう? 万が一ってことがあって、それをミンくんにうつしたら困るから」  電話の向こうで迷っているような間があった。 「でも店長……、おうちで1人なんですよね? 熱があるのに独りぼっちでいるなんて可哀想です」 「ミンくん……」  確かに、心細くないと言ってしまえばウソになる。 「僕はうつってもいいです」 「それはダメだって。親御さんに顔向けできない」 「それは……そうですね。店長に、かえって迷惑かけちゃいますね……」  しなびた声とため息が返ってきた、その時だった。 「おいミンすけ!」  声と前後してスマートフォンを奪い取られる。 「祓戸……!?」  店にはよく顔を出すけれど、彼が部屋に来たのは初めてで、詩は驚いてしまった。  祓戸は任せておけというように目配せして、電話の向こうのソンミンと話し始める。 「詩のことは俺が独りにしないから安心しろ。俺は人じゃねーから病気はうつらない」  すぐに通話を切ったスマホを返された。 「え、どういうこと?」  本当に神さまは病気にならないんだろうか。  あれこれ神話の物語を思い出してみるが、そういう話には思い至らない。病気というのは基本的に人間がなるものだ。  そのうちに祓戸の手がパジャマのすそから進入してきた。 「――わっ、何するの?」  ひんやりとした手の感触にドキリとする。 「何って看病」  祓戸は何を考えているのかニヤニヤ笑っている。 「え、と……?」  そのままベッドへ仰向けに倒され、腰の上に彼が馬乗りになってきた。

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