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第30話 少名毘古那の神④イザナミの呪い

「猫とねずみか……」  祓戸が腰の剣に手をかけた。 「猫も相手をなめてると、ねずみに噛みつかれることがあるから気をつけな」  そこで歩行者信号が赤になり、車のクラクションが響く。 「待って、こんなところで!」  詩はとっさに祓戸の腕をつかんだ。 「行こう! 車来てるから!」 「……え?」 「早く!」  そのまま腕を引っ張って、詩は元いた歩道へ逆戻りする。  ちょうどもう片方の腕には少名毘古那の神が絡みついていて、2人を引きずっていくことになった。  歩道の縁石へ2人を引き上げてから、思わずため息をつく。 「はぁ、もう……あんなところでケンカなんて、死にたいの?」 「あのさ……お前、神が車に()かれて死ぬとでも思ってんのか? 死はイザナミが人に与えた呪いだ。俺たちにはかかっていない」  祓戸が説明した。 「え……?」  言われてみるとそうかもしれない。けどあんなところでケンカなんて、やっぱり周りに迷惑だ。 「でも僕が曳かれそうだった!」  それだけ言うと、祓戸は今気づいたみたいな顔をする。 「そうだな、悪かった……」 「え、で、ケンカはお終い?」  少名毘古那の神は、つまらなそうにその場にしゃがみ込んでしまった。 「ケンカしたかったの?」  詩が聞くと、彼は悪びれもせずに言う。 「別に? 暇つぶしにはなるかなーって思ったけど」 「暇なんだ……」 「オニーサンが遊んでくれないから」 「おいっ」  少名毘古那の意味深な視線に気づいたのか、祓戸が彼のつま先を軽く蹴った。 「俺への嫌がらせで詩にちょっかい出すのはよせ。お前には大国主(おおくにぬし)がいるだろう」 「大国主?」  詩が聞き返す。 「こいつのコレ」  祓戸が親指を立てた。 「世間では兄弟神ってことになってるが、何千年前からの恋仲だよな?」 「お前にはカンケーない」  少名毘古那が被せ気味に言う。 「祓戸はデリカシーがないからイヤだ」 「何、お前あいつとケンカでもしてんの?」 「だから関係ないって言ってる!」 「お前な、人のことには首突っ込んでくるくせに……」  祓戸があきれ顔をしてみせた。 「僕はオニーサンがいい」  少名毘古那が続ける。 「このオニーサンのエロい顔が見たい」 「おまっ!」 「待って待って!」  祓戸が少名毘古那の胸ぐらをつかみかけたので、詩があわてて割って入った。 「お前はどっちの味方なんだよ?」  祓戸がふくれた顔をする。 「どっちの味方とかない。ケンカ反対」 「それよりイイコトしよう? オニーサン」  ケンカをふせぐためには、まず彼の口をふさがなければならないようだ。 「その話はふたりの時にしようか」  詩は笑顔を作った。

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