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第33話 少名毘古那の神⑦デェトで大作戦
「えーっと……、つまりどういう意味だ?」
奥のカウンター席に座る祓戸が、1日前のコーヒーを飲んだみたいな顔をする。
「だから言葉通りの意味で、今度の休みに少名毘古那さんと約束を――」
「なんで2人で約束してんだよ! お前、まさか少名毘古那のヤツに下心がないとでも思ってんのか?」
「ないと思う……」
「ないわけないだろー!!」
真顔で言う詩の前で、祓戸は泣きそうな顔をして立ち上がった。
「誰ですか!? スクナビコナって!」
ソンミンが、洗っていたお皿を取り落としそうになりながら寄ってくる。
(ああ、ミンくんに聞こえちゃったか……!)
祓戸には念のため報告しておくべきかと思ったが、ややこしいことになってしまった。詩は心の中でため息をつく。
「少名毘古那さんは新しく知り合った神さま」
「また疫病神が増えたんですかっ!?」
ソンミンがキッチンにある塩を手に取った。
詩は説明を続ける。
「それでその神さまが僕とデートしようって熱心で、けど本当は恋人の気を引きたいだけみたいだから、1日だけ協力しようってことになったんだ」
「バカかお前は中学生か!」
祓戸がいきり立つ。
「ただ手ぇ繋いで歩いたって、大国主もわざわざ嫉妬してくれないだろー……。つまりその“デェトで大作戦”は床入り込みの話だって」
「そんなことないと思うよ? 少名毘古那さんとは昨日ちゃんと話して、わかってもらえた気がするから」
詩はタコの滑り台での彼を思い出しながら話した。
けれども祓戸はまるで信じていない様子だ。
「あのな! 海千山千の神が、人間とちょっと話したくらいで改心するわけないだろ。あいつの手癖の悪さは、地獄の釜で百年茹でられても直んねえと思うぞ? おおかた今回の“デェトで大作戦”だって、詩を誘い出すための口実だ」
「その前にてんちょー! 僕とのデートの約束はどうなったんですか! 僕の方が先に申し込んだはずですけど」
ソンミンが口を挟んでくる。
「え、ミンくんは祓戸と行ったでしょ。4DX」
「……!? 店長の中ではそれで片付いてたんですか」
彼はくるっと回ってそのままキッチンの床にへたり込んだ。
少し可哀想だけど、今は少名毘古那の神だ。彼のために、何かしてあげたいという思いが詩にはある。
「本当に心配しなくていいから。僕はなんにもないって信じてる」
ちょうどそこで店に客が来て、話は一旦お終いになった。
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