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スカウト

 律さんを避けるため、いつものようにわざと遅い時間に下校する道すがら。  季節は秋を迎え、もうすぐ冬になろうとしている。  おかげで午後7時を回れば辺りはすっかり薄暗い。  ここは路地裏で人通りはあまりない。  その中で、挙動不審な中年の男の人が話しかけてきた。 「ねぇ、君。お金欲しくない? 君にぴったりなお仕事があるんだけど、どうかな?」  名刺を渡され見て見ると、名前の端に『プロダクション』と書いてあるのが目についた。 「タレントか何かのスカウト? 俺に?」  はっきり言って俺は可愛い系じゃないし、容姿も目立って良い方じゃない。  どういうことかと話しかけてきた見知らぬ男性を見る。 「そうなんだ。君、自分が思ってるよりもずっといいよ。鋭い目と整った鼻梁もなかなかだし細身でさ。君を見た時、ビビってきたんだ。君しかいないって思った」  自分のことを指差し訝しげな態度をとる俺に、男の人は何度も大きく頷いた。 「その腰つき、華奢だし。すごく良いよ! 逸材だ」  男の人は俺の下半身を見ながらニコニコ笑っている。  なんか、この視線はすごくイヤだ。  品定めでもするようなじっとりとした視線は体に纏わりつくようだ。  ……でも。  こんな目つきの悪い俺でもいいって言ってくれる人がいるのなら、やってみようかな。

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