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《another story》律、翻弄される。
楓は今、俺の腕の中で眠っている。
安心しきった寝顔。
『俺のどこが好き?』
訊ねてくる楓はたぶん、すごく知りたがっていることなんだろうとは思う。
でもね、この状況で訊かれると、ハッキリ言って困るわけで……。
ふたりきりだし、ベッドの上だし。
目を潤ませて、唇を振るわせて訊ねてこられたら……。
状況が状況だけに……。
無自覚に誘惑してくるから本当に困る。
楓は可愛い。
俺よりも頭ひとつ分は低い身長でちみっとしてて、すぐ顔に出るし何を考えているのか丸わかり。
外に跳ねてるクセ毛も可愛いし、俺と両親公認の恋人関係になっているのにも関わらず、視線を重ねれば恥ずかしがって逸らすところとか。
キス、しても赤面してしまうところとか。
口づけだって何度もしたのに、一向に慣れないところとか。
いつまで経っても初心なところも可愛い。
だけどその反面、
いや、だからこそなのか。
こうやって無防備に寝顔を見せるし……。
俺に縋りついてくるし。
本当に可愛い。
「食べてしまいたい」
楓は知らない。
俺がどんなに楓に嵌っているかも。
俺がどれほど楓を閉じ込めてしまいたいと思っているかも。
うんと甘やかして、俺なしじゃいられないくらいに閉じ込めて。
心も体も俺で染めてしまいたい。
楓が欲しい。
楓を抱きたい。
そんな邪な心を内に秘めている俺を――。
「ふ……。りつ、さ……すき」
すー、すー。
寝息が聞こえる。
俺が悶々としていると、ぼそり。
楓の寝言。
「――っつ」
ああ、もうっ。
本当に君は。
楓なしではいられないくらい嵌っているのはむしろ俺の方だと思い知らされる。
俺は強く、強く楓を抱きしめて眠る。
今の俺が困っているように、明日の朝、楓が目を覚ました時に困ってしまえばいい。
**END**
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