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《another story》翌朝。(楓の場合。)
チュン、チュン。
瞼の裏に明るい光が見える。
だからもう朝だって思った。
今日は土曜日。
学校もないからゆっくり眠っていられる。
いつものような慌ただしさはない。
それに……。
なんだろう。
すごくあたたかい。
落ち着く……。
このまま、もう少し……。
あまりの心地好さに目を閉じたまま、じっとしていると、静かな寝息が聞こえてふと目を開ける。
そうしたら、目の前には大好きな人がいたんだ。
昨夜、たしか俺ってばまたバイクの音が気になっちゃって。
ひとりベッドで孤独に体を縮めていた時。
律さんが来てくれて、震える俺を宥めてくれたんだ。
それで俺はそのまま眠っちゃって……。
ああ、律さんはずっと側にいてくれた。
抱きしめてくれていたんだ。
そう思ったら、好きっていう言葉が自然に落ちてくる。
長い睫毛とか、
高い鼻梁とか、
茶色い髪の毛の一本一本とか。
全部が愛おしい。
俺は、目の前にある綺麗な律さんに顔を寄せる。
それは少し触れるだけのキス。
まるで蝶が綺麗な花を見つけた時のような感じかな?
俺の口が薄い唇に吸い寄せられちゃったんだ。
当然、俺からキスなんて、これが初めて。
正直、恥ずかしい。
心臓がバクバク言ってる。
だけど今、律さんは眠っている。
だから平気。
なんて思っていたんだけど――。
俺の口が律さんから離れた時。
それは起こった。
ガバッ!
「っひゃ!!」
突然俺の体が反転して、仰向けになった。
そうかと思えば、
チウウウウウウ……。
「っひゃああっ!!」
俺の首筋が吸われちゃうんだ。
「楓!」
俺を呼ぶ律さんの声は寝起きだから掠れている。
男の色香っていうの? ただでさえ心臓バクバクものなのにすごくドキドキする。
「っふ、わわわわ……律さ、起きて……」
どうしよう。
俺、起きてる律さんにキスしちゃったの?
なんてパニックに陥っていると――。
ぎゅううう。
俺の体がずっと強く抱きしめられた。
チュ、チュ、チュ……。
唇に、頬に、両瞼にも。
それにそれに、
一番上のボタンを外されて鎖骨にもキスされたり、
それにそれに、背中に回っている手が下着を通って肩胛骨を撫でる。
そうかと思ったら、脇からゆっくり前に移動している……。
「ひああああああ」
俺、どうなっちゃうの!?
そりゃね、今までもたくさんキスしてくれたけれど、今日のキスも、素肌を直接撫でたりとか、今日のは一段と激しいっていうか――……。
「もう、そんなに誘惑して! 本当に可愛い!!」
「りつさ、も……んぅ!!」
律さんの唇が俺の口を塞ぐ。
「……んぅううう!!」
バクバクバクバク。
律さん、もう俺の心臓が持ちません。
**END**
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