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4 大ピンチ!

「ん……」  眩しくて目が覚めた。重たい瞼を抉じ開けると煌びやかなシャンデリアがピンク色の光を放ち、辺り一面を照らしている。  ここは一体どこだろう?  頭がぼうっとして、なぜ自分がここにいるのか思い出せない。腕を上げるのも億劫で、ベッドの中で寝返りを打つ。窓は無く、簡易的な棚に大きなテレビが置かれている。その隣には小さな自販機らしいものが見える。  部屋の中央に置かれたベッドと2人掛けの小さなソファ。ローテーブルには籠に入ったお菓子が置かれていて、その隣にAVでよく見かけるようなポーズをしたお姉さんが映ったチラシのようなものが見えてドキリとした。  もしかして、ここは所謂ラブホという所なのでは――?  嫌な予感がして慌てて飛び起きた。幸い、見える範囲にアキラはいないようだ。  逃げ出すには今しかない!  そう思って立ち上がろうとした。瞬間、かくりと膝が笑ってバランスが崩れる。  身体がだるくて全身にうまく力が入らない。これは一体……?  もしかして、さっき貰ったジュースに何か仕込まれていた?  まさかとは思うけど、寝ている間に何かされたんじゃ……。  自分の中でサーっと血の気が引いていくのが分かった。ちゃんと制服は着ているから、寝ている間にどうこうされたわけじゃないみたいだ。  だけどこの状況はどう考えてもまずい。早く逃げないと――。  そう思った瞬間、静まり返っていた部屋の中にドアノブの回る音が響いた。  ぎょっとして音のした方に顔を向けると、中から濡れた髪をタオルで拭きながら上半身裸のアキラが出てくる。  凄い……。やっぱり男らしい体格をしている。服を着ていた時にはわからなかったけれど、ほどよく鍛えられている腹は無駄な肉なんて全然ない。男の匂いというか無駄に色気のようなものが滲み出ていて、思わず見惚れてしまいそうになる。  よく、女性が好む雑誌なんかの表紙に載っているセクシー系の俳優さんみたいな雰囲気が醸し出されている。 じゃ、なくて! 「なんだ、起きてたのか」  低い声が響き、俺に気づいてアキラがゆっくりと近づいてくる。  有無を言わせない雰囲気というかオーラみたいなものを感じて息が詰まる。    一歩一歩近づいてくるたびに俺の鼓動も速くなり、背中に冷たい汗が伝った。  外に繋がるドアは恐らくアキラの背後に見える緑色のヤツだろう。 何とかして脇をすり抜けられれば出られるかもしれない。だけど、蛇に睨まれた蛙のように体の自由が利かない。  正直言って、凄く怖い。得体の知れない恐怖心に身体が竦む。  これから俺は一体どうなってしまうんだろう?  目の前までやってきた相手をちらりと上目がちに見上げると、切れ長の瞳ににっこりと微笑まれてしまった。でも、顔は穏やかなのに、目が全然笑ってない。 「一つ、聞きたいんだけど……ソレ、趣味なのか?」 「へ?」  俺が言葉を発するよりも早く、質問を投げかけられて思わず素っ頓狂な声が洩れた。  一瞬何のことかわからず戸惑っていると徐に腕が伸びて来て頭に触れる。 「コレ。……キミにはそういう趣味があるのか? ハル君」  耳元で低く囁かれ、慌てて頭を押さえようとした。けれど、アキラが髪を掴むほうが早かった。  ずるりと切り離されたウィッグがベッド脇に無造作に投げ捨てられて、外気に晒された頭がスース―する。 「……どういうことか、説明してもらおうか? ハルちゃん、いや……ハル君」  やっぱりな、と若干怒気の含んだため息を吐かれますます身体が強張った。  絶体絶命の大ピンチだ。何か盛られたせいで体は思うように動かないし、ここはラブホで助けを呼んだって誰も来るはずがない。もし、ここで殺されてしまったら、ニュースには『女装趣味男子殺人事件』とかって取り扱われるのだろうか?  そんなの嫌すぎる!!  ゾッとするような光景が浮かんで鳥肌が立った。怖くてアキラの顔が見れない。 「……俺を騙してどうするつもりだったんだ?」 「あのっ、ごめんなさいっ!」  鋭い声が響き顎を掴まれた。半ば強制的に顔をアキラの方に向けさせられる。  怖かった。低く響く声も、その整った顔も。  オーラと言うか雰囲気まで恐ろしく思えて泣きそうになる。  何とかして逃げなくちゃいけないのに、まるで金縛りにでもあってしまったかのように身体が硬直する。 「ごめんなさい、か……一応悪い事をした自覚はあるわけだ」  ニヤリ。と僅かにアキラの口角が上がった気がした。 「これは、悪い子にはお仕置きが必要だな」 「え?」  お仕置き。  嫌な単語に耳を疑いたくなった。お仕置きなんて小さな子供じゃあるまいし。  俺の理解が追いつく前にいきなり強く腕を引かれ視界が暗転した。そしてそのままベッドに押し付けられて上に覆いかぶさってくる。  まさかとは思うけど、こいつの言ってるお仕置きって……。

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