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第3話 波乱のスキーツアー
頬杖をついて窓の外を眺めていると山肌がうっすらと白くなりつつある事に気付いた。だけど、夜明けまではまだ遠いのだろう。俺達を乗せたバスは街灯の少ない山道をひたすら走り続けている。
もっときれいな雪景色が見れるかと期待していたのに、真っ暗で何も見えない。皆が発する蒸気で窓が曇って水滴が凄いことになっている。きっと外は物凄く寒いんだろうなって事は容易に想像がついた。
集合時間が早かったこともあり、暖かい車内には多くの寝息に混じって時折誰かのいびきとか歯ぎしりの音が響いている。
「なんだ、起きてたのか」
不意に頭上に影が差しふわりとフレグランスの香りが落ちてくる。構わず外を眺めていたら空席になっていた隣のシートがゆっくりと沈み込んだ。
「何しに来たんだ。自分の席に座っとけよ」
「つれないな。空いてるんだからいいだろ? みんな寝てて暇なんだよ」
教師が率先して座席移動してもいいんだろうか? いや、その前に暇って。
「構ってちゃんかアンタ。暇なら目を閉じて寝てればいいじゃん」
「眠くないから仕方ないだろ。ハルだって起きてるじゃないか」
「……」
どうして俺の隣に来たのか理解しがたいが、どうやら自分の席に戻る気はないらしい。
此処でやりあって他の奴らを起こしてしまったら面倒だ。
ただ、背中に感じる視線がうっとうしいし黙っていることによって生じる微妙な空気がどうにも居心地悪い。
「そういや……増田センセと仲いいんだな」
「随分唐突だな」
沈黙に耐えられなくなって思い切って聞いてみた。やっぱりアキラが”透”と呼ぶことに対して変な感じを覚える。喉の奥に何かつっかえたようなちょっとした違和感。
だけど、それがなんでなのかが、どうしてもわからない。
「……透が気になるのか?」
「別に、ちょっと聞いてみただけ……ぅ、わっ!?」
突然肩を引かれバランスが崩れる。文句を言おうと顔を上げた瞬間、顎を持ち上げられて目前に綺麗な顔が迫っていて――。
「ちょっ、な……ッ!」
唐突に唇を塞がれた。避ける暇もなかった。顔を引こうとするけど変な体制でしっかりと胸に抱きしめられていて身動きが取れない。
シャツに染み付いたタバコとフレグランスの香りに包まれて嫌なはずなのに心臓がドキドキし始める。
「お、おまっ何考えて……っ!」
「あいつは、やめておけ」
「は!?」
「オレにしとけよ」
何のことを言っているのかよくわからないが、 固い声や表情から不機嫌さが滲み出ている。
「い、意味わかんねぇ。つか、離せっ」
「嫌だ」
嫌だって、駄々っ子かよ!
なんとか腕の中から抜け出そうと思うけれど狭い車内じゃ動きはどうしても制限されてしまう。
これ以上キスされたらたまらないと顔を背けたら、耳を軽く噛まれた。舌先で耳の後ろをなぞられて、肌が粟立ち、じんと腰に痺れが生まれる。
「声出すとバレるぞ」
耳元で囁かれ、低音ボイスが腰にクる。激しく抵抗できないのをいいことにアキラは執拗に耳の中を蹂躙し始めた。くちゅくちゅと耳の中で直接濡れた音が響くのがいやらしくて堪らない。
声を出してはいけない状況が余計に羞恥心を煽り熱を持ち始めた下半身が大変な事になっている、
「……は、……ぁっ」
突然、制服の上から尖り出した胸の突起を押され、驚いて堪えきれない声が洩れた。 慌てて口元を手で押さえるけれど、俺の反応に気をよくしたのか今度は服の上から乳首を撫でながら首筋に柔らかい唇が当たる。
「ふ……んん」
声が出せない状況と言うのはなんて残酷なんだろう。
あちこち触られて、甘い痺れが全身を駆け巡り、息が上がる。制服の襟元、ギリギリ見えるか見えないかと言う所をきつく吸われて堪らず体が震えた。
こんな拷問耐えられるはずがない。一度も触れられていない下半身に熱が集中し痛みすら覚え始めた。とにかく早く解放してほしくて無意識にそこに手が伸びる。
「おっと、こんなとこで公開オナニーショーでも始めるつもりか?」
チャックに指を掛けたところで手首を掴まれそれを止められた。勿論、そんな恥ずかしい事をするつもりはなかった。
「お、お前がっ変なことするから……ッ」
「我慢できない? いやらしいな、みんないるのに」
「ッ」
艶のある低い声が耳元で囁く。手を引っ込めようとしたけれど許してもらえずアキラの手が重なった。 そのまま握りこまれ緩々と上下に動かされれば身体が勝手に反応してしまう。
「ぁ、や……ッ恥ず……っ」
「恥ずかしいって言ってる割に、動かしてんのは自分だぞ? こんなガチガチにさせて……やっぱドМだな」
「く……ッ」
誰のせいでこんな風になったと思っているんだ! 文句の一つでも言ってやりたいけれど今はそれどころではない。声を上げれば変な声が洩れてしまいそうで空いている手の甲を噛んで堪える。
煽るように布の上から鈴口を指の腹で押された。そのまま緩い刺激を与えられ、先走りで濡れた先端が布で擦れてじれったい刺激に頭がおかしくなりそうだ。
こんなところで、アキラなんかにイかされたくない! だけど、このままこんな刺激がずっと続くのはとてもじゃないけれど耐えられない。
「ほら……言えよ。このままスキー場に着いたら困るだろう?」
蠱惑的な囁きが耳に響いて、同時に煽るように手の動きが早くなる。もう、駄目だ。我慢できない――。
「は……、せて……」
「ん? なに、聞こえないな」
蚊の鳴くような声で伝えたけれど、アキラは意地悪だ。煽るように指を動かしながらこの期に及んで言わせようとする。
悔しくて、恥ずかしくて目じりに涙が滲んだ。仕方がないけれど背に腹は代えられない。思いっきり胸倉を掴んで引き寄せアイツの耳元で囁いた。
「クソ……ッ、だ、だからッ……早くイかせろってば……ッ馬鹿……ッ」
「ふふ、了解」
アキラは満足げにほくそ笑むと、徐に身体を離した。流れるような手つきでズボンの前に指を掛けたと思ったら身体を屈ませてソコに顔を寄せ――。
ぬるりとした感触にすべてを包み込まれ、煽られるように吸われ舌が絡みつく。既に限界まで張りつめていた俺に止める術なんてなくて。
今まで味わったことのない強い快感に目の前がくらくらする。
「あ、や……ッく、ぁあっ!」
あっという間に追い詰められて、腰が震え、促されるままアキラの口内へ。
「……ごちそうさん。可愛かったぜ」
満足げにそういうと、強烈な快感の余韻が抜けきれずぐったりとシートに凭れた俺の頭を撫でてアキラは何事もなかったかのように自分の席へと戻っていった。
「~~~~最悪ッ」
ああ、自己嫌悪だ。頭を掻きむしりたい衝動に駆られ、ゴチっと窓に頭をぶつけた。ヒヤリと心地いい外気が火照ったからだと頭を冷やしていく。
本気で今すぐ帰りたい。 これから3日間、みっちりアイツと顔を突き合せなきゃいけないと思うと気が滅入る。そんな俺の気持ちを嘲笑うかのようにバスはノンストップで雪深い山道を登っていく。
木々の間から差し込む光が眩しくて目を細めた。遠くの方にリフトやロッジが見えた気がして深いため息が洩れた。
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