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中に入ってまず目に付いたのは湯煙に包まれた大きな岩のお風呂。間接照明の効いた木々の隙間から見える白銀の世界に青白く光る大きな満月が、より一層幻想的な雰囲気を作り出している。
「……あの、さ」
「ん?」
大人が5~6人くらいは入れそうな十分な広さがあるのに、湯につかって直ぐに引き寄せられて股の間に座らされた。
「ん、じゃねぇよ。風呂は広いんだからこんなに密着する必要なくね?」
「こうすると落ち着くんだよ」
そう言って、俺の肩に顎を乗せる。
せっかくのいい眺めなのに、首筋に当たる吐息とか腹のあたりに置いてあるアキラの左腕とか、色々と気になりすぎて全然リラックスできない。
「……俺が落ち着かないっての」
「こういう事、期待するから?」
耳にふ、と息を吹きかけられて首筋に柔らかな唇が当たる。色気をたっぷりと含んだ声色に、背筋がぞくりと粟立った。
「ばか、違うし! つか、手は出さないって約束……」
「手は使ってないだろ? それに、おれは同意してない」
「……っ」
そんなの屁理屈だ。抗議しようと俺が振り向くより早く胸の尖りをきゅっと摘ままれた。嫌なはずなのに身体は勝手にびくりと動いてしまう。ゆっくりと首筋から肩にかけて唇が降りてきて柔らかく吸い付かれ、ゾクゾクするような甘い痺れが全身を駆けた。
「……は……ぁっ、ばか……止めろって。こんな所誰かに見られたら」
「ふふ、そんなこと言って期待してたくせに」
「なっ! ち、ちがっ俺は期待なんか……んんっ」
言葉は最後まで続かなかった。弱い部分を同時に攻められれば嬌声が洩れそうになり慌てて手の甲を噛んで耐える。
「本当に? さっき、物欲しそうな顔でみてただろ?」
「なっ、ちがっ俺はそんな顔してないっ!」
「じゃぁ、何を想像してたんだ?」
「それは……っ」
その質問に咄嗟に答えることが出来なかった。期待していたわけではないが、こうなるような予感は最初からあった。
「違うって言うなら、コレはどう説明する? しっかり興奮してるじゃないか」
「そ、それはお前が……! ぁあっ」
恥ずかしい事実を指摘され、顔から火が出そうなくらい熱くなる。
湯の中ですっかり興奮の兆しを現し始めたソレに触れられて身体がびくんと震えた。上下に軽く擦られただけなのに、俺ははしたない声を上げてしまいそうになり慌てて口を手で押さえた。
と、その時。
「やべー、絶景じゃん」
「スマホ持ってくりゃよかった」
「なに言ってんだ。浴室内はスマホ禁止だろ」
何やら大浴場の方が騒がしくなり、ガラリと扉が開いた。湯煙の向こうに人影が見えてハッとした。
「ハル、こっち!」
「う、わっ」
俺達が人が充分に隠れられるくらい大きな岩の陰へと避難するのと、入って来た人たちが湯船に浸かるのはほぼ同時。
声からして若い奴らが数人。サークルがどうとか言っているから恐らく大学生だろう。よかった学校関係者ではないみたいだ。
だけど、どうする? こんな状態じゃとてもじゃないけれどここから出ていく事は難しい。まだ、向こうはこっちの存在に気付いていないようだけどいつ気付くかわからない。
やっぱり落ち着くまで岩陰に――。この場を切り抜けるにはどうしたらいいかと考えていたら、突然後ろから尻を撫でられた。
驚いて声を上げそうになり、慌てて手で口元を覆い背後にいるアキラを睨み付ける。
「おまぇっ! なに考えて――ッ」
「シッ。声を出したら、そこにいる奴に気づかれるぞ?」
なんて、いけしゃぁしゃぁと言い放つ。そして、何を思ったのかするりと伸びてきた左手に乳首をギュッと摘まれて電流のような快感が背筋を駆けた。
「んん……っ」
アキラは俺の性感帯なんて全部お見通しだ。胸も、耳も首筋も、どこをどう触れば反応するのか全て知り尽くした上で触って来るから余計にタチが悪い。
強く摘まれて尖りだした乳首をぐりぐりと指で潰されて堪らず腰を捩らせた。
「ンっ、アキラ、は、ぁ……やめっ」
「いいね、その顔……そそられる」
ククっと喉で笑われて息が詰まる。こんなことして、バレたらどうするつもりなんだっ!
胸から下半身へ人差し指がツゥと降りた。長い指先が行ったり来たりを繰り返す。さっきまで燻っていた熱がぶり返してきて直接触って貰えないもどかしさでおかしくなりそうだ。
岩にしがみ付き声を出さないように唇を噛んで堪える。だけど、アキラはやめる気が無いようでもじれったい刺激を繰り返し与えてくる。
どうしよう、俺……。ここは露天風呂で、見知らぬお兄さんたちがほんの数メートル先位に居るのに。
「ぁ、んん……待って、マジ……ヤバいってば」
こんなふざけたこといくら何でも度が過ぎてる。文句の一つでも言わないと気が済まない。
そう思って振り返ると、情欲に濡れきった瞳とぶつかった。文句を言う暇もなくそのまま乱暴に唇を奪われ、柔らかく濡れた舌先が薄く開いた隙間から強引に割り込んでくる。
「ちょ、馬鹿っ、やめ……!?」
「声を出すな。 余計にバレるだろうが」
じゃぁ止めればいいのに、アキラにそのつもりは無いらしい。顎を掴まれて直ぐに唇を塞がれた。熱い舌が歯列をなぞり、舌が絡め取られると頭の芯がジンと痺れた。
「あ……ふ……っ」
荒々しい口づけに息が出来ない。酸素を求めて顔を背けてもすぐに追いかけてきて、角度を変えて口づけられ溢れだした唾液が首筋を伝った。
「やらしい顔……堪らないな。……ハル」
熱を帯びた声が耳元で響き、もどかしさで身体の奥が堪らなく疼く。
いやらしいのはあんただよ。獣みたいな獰猛な光を宿した瞳からは逃げられそうにもない。
ようやく口づけが解かれたと思ったら、身体を反転させるように求められた。呼吸を整える間もなく熱に浮かされたような扇情的な声に促されるまま、石の縁に手をついて腰を上げる。
もしかして俺、このまま――?
「最後まではシない。けど、このままじゃ、おれもお前も辛いだろう?」
そう言って、股の間に熱いモノを押し付けてくる。
アキラがゆっくりと腰を動かすたび、腿の間で熱い塊が擦れお湯がちゃぷちゃぷと音を立てる。
信じられない。こんなAVみたいなことを自分がする日が来るなんて――――!
「ぁ、……ふ、んんっ」
「やらしいな。腰が揺れてるぞ」
尻の割れ目に熱いモノを押し付けられ思わずごくりと喉がなった。押し付けたまま腰を揺すられてぞくぞくするような甘い痺れが全身を駆ける。
不意にアキラの手が俺のに触れた。
「ん、ぁ……っ」
「あー、ダメだ。我慢できない」
興奮気味に囁いたと思ったら顎を掴まれ、俺の首を斜め後ろに傾けさせる。ふっと影がさし、開いた口の中にアキラの舌が滑り込んできた。
「んっ……ンっ」
口の中でアキラの舌が縦横無尽に蠢く。太腿の間に押し付けられた熱いモノが挿入してるみたいに小刻みなピストンを開始する。
その動きに合わせて下半身を愛撫する手の動きが早まった。
どうしよう……。こんな所気付かれたら絶対にまずい。それはわかっているのに、アキラを拒めない。
それどころか、この状況に興奮し気持ちいいと感じてしまってる自分がいる。
「ぅあ……は、ん……っ」
じゅるりと唾液を啜る艶かしい音に腰が痺れた。敏感になった乳首を指で押され身体が跳ねる。
考えたこともない恥ずかしい行為に頭が沸騰しそうだ。がくがくと足が震えて岩にしがみ付いていないと立っていられない。
熱い、熱くてもうどっちの熱かもわからない。だんだん何も考えられなくなってきてその行為に夢中になった。
「や、……は、ぁ、も、無理、出る……っ」
「ハル、……く……っ」
切なげに名前を呼ばれ、アキラが息を詰める。それとほぼ同時に俺も手の中に白濁を飛ばしてしまった。
「たく、マジ信じらんねぇ」
「まぁ、よかったじゃないか。見つからなかったわけだし」
「良くないだろ! ぜんっぜん良くないからな!」
結局、あの後気付いたら露天風呂の中には誰もいなくて、ホッとしたのも束の間。
入浴時間終了を告げる風呂掃除のおじさんに促され急いで脱衣所へと向かったわけだけど、一歩間違えば大変なことになっていた。
「でも、気持ちよかったんだろう?」
「うるさいっ!」
ドライヤーで髪を乾かしてやっている途中で鏡越しににやりと笑われ、思わず持っていた櫛でぽかりと殴る。
「たく、乱暴だな。さっきはあんなに可愛かったのに」
「あーもう、お前もう黙れよ馬鹿ッ!」
さっきからこの調子で、アキラにはからかわれっぱなしだ。恥ずかしい事この上ない。
「髪も乾いたし、俺もう部屋に戻るからな!」
居た堪れなくて、立ち上がるとアキラにちょっと待ってと呼び止められた。
「んだよ、今度は……」
「そうツンツンするなって。これを、渡しとこうと思って」
「ん? これって……」
俺の手の平にぽんと置かれたのは、一箱5~六千円はするであろう某チョコレート。
綺麗にラッピングされた箱の上にhappyValentineの文字。チョコレートにしては二回りほど大きい気もするが。
「言っとくけど、貰い物とかじゃないからな」
「……なんで俺にこんなの……」
「いいだろ何でも。ただおれがハルに渡したいと思っただけだ」
どうせ、誰にも貰えてないんだろう? なんて言いながら靴を履いて脱衣所を出る。
「……余計なお世話だよ、ばーか」
自分用に割り当てられた部屋へと戻るアキラの後姿を見送りながら、そっとその箱を撫でた。
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