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ユキの家へ着くと、速攻で風呂に入れと促された。 濡れたままの制服では風邪をひいてしまうからと半ば強引に制服をはぎ取られ全て洗濯機に突っ込まれた。 ユキだって濡れているはずなのに、一緒に入ろうと言ったら何故か拒否。昔は一緒に入ってたのにな。なんて思いながら、温かいお湯に浸かり、ホカホカ状態でユキの貸してくれた部屋着に袖を通した。 元からダボッとしているデザインなんだろうけど、シャツが大きすぎて短パンが履いてるんだから履いてないんだかわからない状態になっている。 小学生の頃は俺のほうが大きかったのに、筍みたいに伸びやがって……。 いくら成長期とは言え、ここまで差があるとちょっと切ない。 階段を登ってユキの部屋へと向かう。幼い頃、何度も互いの家を行き来していたから家の構造はだいたいわかってる。おじさん達はまだ戻って来ていないようで、家の中は薄暗い。 一応、ノックしてから部屋に入るとユキが俺を見て一瞬目を見開き、そしてゆっくりと視線を逸らした。 「……ブカブカでガキみたいだって思ってんだろ」 「そうじゃないけど、思った以上に破壊力が凄くて」 「破壊、力?」 何を言われたのかわからずに、首を傾げるとユキはコホンと咳ばらいを一つして、部屋の中央に置いてあるローテーブルに一枚の写真を差し出した。 スキーウェアを着た大学生位の人たちが20人くらいで並んでいるその写真は、4年前にお兄さんが所属していたスキー同好会で撮った集合写真だと言う。 「昨日、兄さんが友達のお墓参りの為に帰って来てたんだけどさ……思い出話のついでにコレを見せてくれたんだけど……」 「お墓参りって、もしかしてあのニュースの?」 「昨日が命日だったらしいんだ。それで、毎年みんなで命日には集まろうって事になってたみたい」 「そっか」 その話を聞く限り、兄ちゃんの友達はきっと人気がある子だったんだろうな。嫌われてたり、嫌な事するヤツだったら死んだあと集まってくれるなんてことは無いと思う。 「それで、この写真の真ん中にいる子がそうなんだって」 「え? この子……?」 ユキの示す先に居る人物を見て、俺は思わず二度見、いや三度見してしまった。 だって、その写真に写ってる女の子があまりにも、女装した時の俺にそっくり過ぎたから。 「僕も見た時びっくりしたんだ。 和樹から見せて貰ったのは一瞬だったんだけど、あの写真の拓海とよく似てるなって」 多少の記憶違いはあるかもしれないけど、よく似てる、なんてレベルじゃない。 「それで、この子の名前が遥香さんって言うんだけど、彼女、婚約者が居たらしくて。兄さん、お酒飲んでたからか珍しく饒舌で、いつもはそんな話しないのに………。 彼女の事、好きだったのかな。凄い悔しがってた。「ハルちゃんはみんなのアイドルだったのに加治先輩に取られたんだよ~!」って」 ユキの話を聞いているうちに、変な汗が出てきた。 顔がこわばり血の気が引いていくの感じるる。  兄ちゃんの同級生で俺とよく似てる姿のハルさん。それで、婚約者の名前が加治!?  一体どういう事だろう。これはただの偶然なんだろうか? 「それでさ、考えてみたんだ。加治先生が拓海を”ハル”って呼ぶ理由……。実家で飼ってる猫の名前だと言ってたけど、それって本当なのかな? 拓海って、あの格好して誰かと会ったって言ってたよね? それって加治先生なんじゃない?」 真っすぐな視線に射抜かれて、俺は身動きが出来なくなった。いきなりこんな話を聞かされて冷静で居られるはずがない。考えが纏まらず手にはしっとりと嫌な汗をかいている。 ユキは多分、確信を持って俺に聞いているんだろう。不確かな事は口にしないし、噂話とかそういうのも実際の目で確かめたものしか信じないタイプだ。 「か、加治って名前はそこまで珍しい名前じゃないし、偶然じゃね? 俺が会った奴とは別人だよ」 「本当?」 「ほ、ほんと……」 俺は咄嗟に嘘を吐いてしまった。混乱はしているけど、その話の加治先輩がアキラだなんて、出来れば信じたくない。 そう言えば、ユキがさっき会った子は遥香さんの妹だと言っていた。 もしかしたら昨日、アキラと歩いていたのは、ナンパとかそんなのじゃなくて、彼女のお墓参りに行くため――? じゃぁ、俺に近づいてちょっかい掛けて来てたのは俺を通して遥香さんを見てたって、事? いくら言っても俺の事ちゃんとした名前で呼んでくれないのは……。 考えれば考えるほど、嫌な思考が頭の中を占拠する。そんなの嘘だ……。やっぱり信じたくない。 俺の動揺をジッと見ていたユキがわかりやすい溜息を吐いた。 「拓海ってさ、加治先生の事好きだよね?」 「な、なに言って……」 「僕を誰だと思ってんだよ。ずっと、ずっと拓海の側に居たんだ。気付かないとでも思ってた?」 真っすぐに、黒い双眸が俺を捉える。言葉は穏やかだけど、表情は全然穏やかじゃなくて自然と身体は後ずさった。 「最近の拓海は、ずっと加治先生の事ばっかり見てる。僕が居るのに……どうして、僕じゃないんだ……。なんで……!」 唐突にガシッと肩を掴まれて強い力で抱きしめられた。避ける暇なんてなかった。訴えるような声は今にも泣きだしてしまいそうで、肩が小さく震えているのを感じる。 「ユ、ユキ……?」 「拓海が好きだよ。 ずっと、ずっと前から……好き、だった。だから――!」 突然の告白に戸惑う間もなく切なげな声が響いたと思ったら、物凄い勢いで視界が反転する。 気付いたら床に押し倒されていて、強引に顎を掴まれた。

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