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これは夢だ。  きっと悪い夢を見ているんだ。   そうでなければユキがあんな事するなんて考えられない。  信じがたい現実から逃れたい一心でユキの家を飛び出した。もちろん行くあてなんかあるはずも無く一心不乱に走り続けた。  なんで、どうして、親友だと思っていたのに……。  いきなり牙を剥いたあの表情が頭にこびり付いて離れない。   ユキを初めて怖いと思った。  幼稚園の頃からずっと一緒に居て、沢山喧嘩もしたけど今まで一度だってこんな事はなかったのに。 「……っ」  不意に冷たいものが頬に当たった。  思わず足を止め、見上げると暗い雲の隙間から糸のような雨が静かに落ちてくる。  雨宿りしようかとも思ったけれど近くにそれっぽい建物も見当たらない。  コンビニに行けば傘くらいは売ってるかもしれない。 「あ……」  馬鹿だ。財布も定期も全部カバンの中。  携帯はコートの中でそれもユキの家に置いてきてしまった。  なにやってんだろ、俺……。  持ち物は全部ユキの家。こんな全身ずぶ濡れの状態じゃ家にも帰れない。  かと言ってあそこには戻りたくないし。  今の自分があまりにも惨めに思えて、胸が締め付けられたように苦しくなる。  このまま小さくなって消えてしまいたい気分だった。 「――ハル……? 何やってるんだ、こんなところで」   道端でしゃがみ込んでいた俺を誰かがグワッと持ち上げて引き立たせる。 「……?」  目の前に、アキラが居た。  どうして? なんでこんな所に。 「全く、こんなに冷えて……」   ふいに腕の中へ引き寄せられる。冷たい雨の匂いと一緒に甘いフレグランスの香りが鼻を掠め胸がいっぱいになる。   泣くまいと必死に堪えていたのに、優しくされたら止まらなくなる。胸につかえていた思いが堰を切ったように溢れ出した。 「アキラ……っ……」  年甲斐もなくすがり付いて泣いてしまった俺をアキラは何も聞かずに、ただ黙って背中を擦ってくれていた。

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