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第5話 HNは特別な証?

 薄暗い部屋の中、ばふっとベッドに突っ伏して枕に顔を埋める。目を閉じれば先日のやりとりが思い出されて闇よりも深い溜息が洩れた。  あれから数日。なんと俺は久しぶりに熱を出した。学校を休んだのは小学校低学年以来だ。  まぁ、二月の雨に何度も打たれたんだから当然といえば当然かもしれない。精神的に相当参ってたってのもあると思う。  あの日は本当に色々なことがありすぎた。思い出すと今でも胸が苦しくてやるせない気持ちになって来る。  アキラと出会ってからの約二か月はジェットコースターに乗っているような日々だった。  最初は大っ嫌いだった筈なのに、気が付いたら側に居るのが当たり前みたいになっててからかわれたりエッチな事される度にドキドキして胸が痛くなって。  アキラがハルって呼ぶこともそれが自然な事の事みたいに感じてた。友達とかをニックネームで呼ぶような感覚。俺もそれが普通でこれから先もずっと続くもんだと思ってた。  馬鹿だな俺……。  アキラが俺をハルって呼ぶのは、他人には絶対に呼ばせなかったのはアキラにとって俺が特別だからだと勝手に思い込んでた。そう思いたかったのかもしれない。  そんなわけ、あるはずがないのに……。  特別なのは遥香さんで、俺じゃない。  アイツの目に映っていたのは最初から俺なんかじゃなかったんだ。 「そんなの……嫌だ」  誰かの代わりなんて――冗談じゃない。  誰かの代わりじゃなくて、アキラにはちゃんと俺だけを見て欲しいのに。  好きだって自覚したとたんフラれるとかもう、色々終わってる――。 「ハハッ……ダッサ……」  乾いた自嘲気味な笑いは余計に心を締め付ける。  もう少し早く自分の気持ちに気付いていれば事態は何か変わってたかな。  何も、変わらないか。アキラが好きなのは最初から俺じゃないんだから。   アキラは女の子が好きで、俺は所詮、彼女の身代わり。勝手に勘違いしてドキドキして、アイツに振り回されて……ほんと俺、馬鹿みたいだ。  じわっと滲んできた涙を枕に擦り付け、気持ちを落ち着かせるために深呼吸を繰り返していると下の方でチャイムの音が響いた。  玄関で母さんが対応している声が聞こえ、それに続いて階段を上がる足音が響く。  ゆっくりと近づいてくるそれは俺の部屋の前で立ち止まった。 「拓海、先生がいらっしゃったわよ」  先生? 先生ってアキラの事!? 「俺、熱で寝込んでるって言って!」 「何馬鹿な事言ってるの。熱はもう下がってるでしょ」  慌てて布団に潜ったのと同時にドアが開く音がして、呆れたような声が飛んできた。  ううっ、母さん。せめてノックぐらいしろよ。プライバシーとかさ、人に会いたくないときってあるんだから。 「少し拓海君と話がしたいので席を外してもらえますか?」  けど、聞こえてきたのは俺が想像していたのとは違う声。  そっと布団の中から目だけを出すと、増田センセが「カタツムリかよ」なんて苦笑しながら俺を見ていた。

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