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 それから、アキラはゆっくりと遥香さんの事について話して聞かせてくれた。  小さい頃からモテまくって天狗になっていたアキラが初めてフラれた相手で、それが悔しくて猛アタックしたこと。  半年間振り向いて貰えなくて必死にアピールした結果付き合うことが出来て幸せだった。  彼女が料理上手で家庭的な非の打ち所のないような人だった事。大学卒業後に結婚を申し込む予定だったのに、あの事故のせいでそれが適わなかった事。  現実が受け入れられずに苦しんだ過去。それをずっと側で励ましてくれた増田センセの存在……。  聞けば聞くほど、俺が想像していたよりずっとアキラが苦しんでいたのだと言うことがわかって胸が痛くなった。 「透からリアコイにまた登録したって聞かされた時、正直、うんざりしてた。彼女を超える奴はいないんだから何回会っても無駄だって。けど、今回は絶対当たりだから! ってあまりにも透がしつこいから仕方なく会うことになったんだけど……」 「……それが、女装した俺だったってわけだ」  俺の言葉にアキラがこくりと頷く。 「最初は全然興味なんて無かったし、送ってくる写真を加工しまくる女なんて腐るほど見てきたから、どうせ今回もハズレだろうとあまり正直期待はしてなかったんだけどさ……実物を見たとき、息が止まりそうになった」 悪びれた風でもなくアキラの独白は続く 「まぁ、直ぐに男だと気付いたし、ツレもいたから多分冷やかしなんだろうなとは思ったけどな」 「えっ!? 最初から男だって気付いてたのか!?」 「そりゃ、まぁ割と初めの方で……。言葉遣いとか、歩き方とかどう考えても無理があるし」  それを言われてしまえば、何も言えない。そうだよな、外見だけ女性に見せたって普段の行動とかまでは意識できるわけがない。 「気付いてたんなら早く言えよ」 「いや、そういうのが趣味な子なんだろうなと思って……」 「んなわけないだろっ!」 「ハハッ、まぁ……そのまま逃がしてやっても良かったんだけど物珍しかったから、興味が湧いたんだ」 「興味って……だから、ホテルであんな事したのかよ」 「恥ずかしい話、ハ……渡瀬に会うまで勃たなかったんだ。けど、なんかイケる気がして」  いやいや、イける気がするって! まぁ、確かに最後まではされなかったけどさ……。  と、言うかむしろノリノリだったじゃん! 「なんで男相手にイけると思ったんだよ。意味わかんねぇし」 「なんだろうな……口は悪いし、チビだし、色気も足りないのに」  さりげなくディスりながらひやりとした指先が頬を撫でた。切なげな表情と言葉がミスマッチすぎて何と答えたらいいのかわからなくなる。 「最初は興味本位なだけだったのに、なんでこんなに……好きになったんだろうな」  自嘲気味な呟きは独り言のようなものだったのかもしれない。だけど、はっきりと俺の耳に届いてしまった。  アキラが、俺の事を……。 「好き……?」  アキラもそうだったらいいのになと思ってはいたけれど、はっきり言葉で言われたのは初めてで、なんだか急にドキドキしてきた。 「ハ……、渡瀬を傷つけるつもりなんてなかったんだ。確かに、興味を持ったきっかけは遥香に似ていたからだったけど、アイツと重ねてみたことなんて一度もない。信じてくれなんて都合がよすぎるとわかってはいるけれど――」 「……大丈夫、信じるよ」  言った瞬間俯きそうになっていたアキラが弾かれたように顔を上げた。黒い双眸が大きく見開かれ、安心したのかゆっくりと破顔する。 「ほんとは、わかってたんだ。俺を傷つけるつもりなんてなかったって。増田センセにも言われたし……」 「透? たく……あのおせっかい……」 「けど、アキラの口から直接聞けて良かった」  そっと頬を撫でている指に自分の手を絡める。こうやって撫でてくれる指が好きだった。意地悪をされることも多かったけど、長くて逞しいこの指が俺の知らない世界を教えてくれた。  俺は身代わりなんかじゃなかった。最初からアキラは俺を、俺だけをちゃんと見ていてくれたんだ――。  改めてそう思ったら愛しさが込み上げてきて堪らずアキラに抱き着いた。咄嗟の事に対応できずにバランスを崩し二人でベッドに倒れ込む。 「ってぇ……おい、来るなら来るって言え――」 「アキラ、好き」  返事を待たずに両手で頬に触れ自分から口付けた。びっくりして目を見開き固まっているアキラの姿が新鮮で可笑しくて、堪らず何度も唇を触れ合わせる。  キスしたらこの思いは満足するかと思ったのに、全然足りない。  触れれば触れるほどもっとアキラの事が欲しいと言う欲がどんどん湧き上がってくる。そんな衝動に駆られたのは生れてはじめてで戸惑っているとアキラがはふ、と息を吐いた。 「たく、いきなりがっつくなよ」 「ごめん……」 「謝らなくてもいい。っていうかどうする?」 「え?」 「ほら、此処ってそういうとこだろ?」  俺の腰を撫でながらにやりとアキラが笑う。アキラの言わんとすることがわかって、今更ながらにボッと火が出るくらい顔が熱くなった。 「ハハッ、たった今まであんなエロいキスしといて嫌とは言わないよな?」 「……っわかってるくせに……」  一気に部屋の空気が甘いもので満たされていく。言葉で伝えるのは憚られたので返事の代わりにもう一度自分から口付けた。  それが合図になった。

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