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第2話/企み①

  「君を奪った責任は取るよ」  申し訳なさそうに幾度となく頭を下げた後、帰路につく広い背中を見つめながら、郁己はにやりとした。  これで彼は自分から逃れられなくなる。  この日本という国ではまだ同性での結婚は認められていない。  とはいえ、厳格な彼はそれをすべからく実行に移すだろう。  ――そう、飯島 郁己にとって、それこそが計画の一部だった。  一目惚れだった。  自分よりもずっと背が高く、すらりとした体型。高い鼻梁に薄い唇。射貫くような鋭い目。けれど微笑を浮かべた時は目尻に小さな皺が刻まれ、とても優しい表情になる。  そして彼は会社でも優秀な人材だった。  彼、直人と郁己は同期だ。彼はチーフパタンナーとして。郁己はチーフデザイナーとして、今いるブランド会社に引き抜かれてやって来た。

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