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第2話/企み③

 だから郁己は焦った。直人が家庭を持つのも時間の問題だと――。  だって彼はとてもスマートで格好いい。  今までは、仕事が忙しいからと突っぱねていた恋愛ごとも、しかし社長自らが縁談を持ってくるとなると話が違ってくる。  だから実行したのだ。  予てよりずっと好きだった男性(ひと)を手に入れるために……。  新作発表を控えたこの季節を利用して、郁己は直人と共に例の如くホテルで最終案を煮詰め、そして徹夜続きの彼に睡眠薬を投入し、襲われたふうを装ったのだ。  そう、実のところ郁己は直人に抱かれてはいない。  しかし、男を知らない彼はそのことに気付かず、真面目な直人は責任を取るとそう言った。  判っている。こんなものは茶番にすぎないと。それでも、郁己は彼を繋ぎ止めていたかった。  けれどもそれは間違っていた。

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