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第3話/指輪。①

   直人を脅すようにして密かに付き合いはじめて数日が経ったある日のことだ。  郁己は見たのだ。  見知らぬ女性と寄り添い、滅多に笑みを浮かべたことがない彼が親しげに笑っている現場を――。  彼女は社長が持ち出した縁談の女性だろうか。  それを見た瞬間、郁己の胸が張り裂けそうに痛み出した。  自分には向けてくれないその笑顔を、彼女には簡単に見せるのだと思えば辛く、悲しい。  けれどそれも仕方のないことだ。  だって直人は想ってもいない郁己に無理矢理付き合わされているだけなのだから。  ――可哀相な直人。  あの女性と生涯を過ごしたかったのかもしれない。  そう思うと、郁己の良心は痛んだ。  そして数日後、郁己は直人に止めをさされるのだ。  直人と付き合うことになってからさらに数週間が過ぎた。  郁己はやはり直人を諦めきれず、真実を告げられずにいた。

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