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第3話/指輪。③

 そして、直人は薄い唇をゆっくり開いた。 「飯島、俺と結婚してほしい」  これに驚いたのは郁己だった。  だってまさか直人にプロポーズされるとは思ってもみなかったからだ。  ――いや、そうではない。  真面目な彼は郁己に責任を取るとそう言っていた。  つまり、これが彼なりの責任の取り方なのだろう。  自分が望んだものはすぐ目の前にある。  けれども本当にそれでいいのだろうか。  だってそこに愛はない。  義務と責任。  直人にあるのはただそれだけだ。  そこで郁己が思い出したのは、女性と笑顔を交わしていたあの光景だった。  どうやっても直人は自分に対してあんな笑顔を向けてくれない。  そう理解した瞬間だった。郁己は頭打ちを食らった。  ああ、自分はなんて馬鹿なことをしでかしたのだろう。  直人欲しさに、彼の気持ちも自分のも、すべてが見えなくなっていたのだ。

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