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第3話/指輪。④
自分が欲しかったのは直人の心で、形式張ったものではない。
「アンタはそんなこと、しなくてもいい」
郁己は首を振り、差し出されたダイヤモンドリングを押し返した。
涙が込み上げくるのは仕方のないことだ。
だって自分はこれほどまでに直人を想っているのだから……。
「ごめんなさい、全部嘘なんだ。俺と付き合うことになったあの日。本当は、俺は貴方に抱かれていなかったんだ……」
嗚咽紛れに伝える真実――。
嫌われるのは目に見えている。
それでも郁己は口にする。
「なんだって?」
案の定、直人の声はいつになく低音だ。
涙で滲んで彼の表情は判らないが、どれほど怒っているかは簡単に想像が付いた。
それもそうだろう。だって自分は抱かれたと偽り、直人を動けなくした。
もしかしたら、自分と付き合っている最中に、例の女性から告白されていたかもしれない。けれども真面目な彼は郁己との責任を果たすために断った可能性だってある。
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