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第4話/求婚。①
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走って、
走って……。
振り返れば彼の姿はやはりない。
そんなことくらい判っていたはずなのに、それでも心のどこかで期待している自分がいた。
直人は今頃よくも騙してくれたと怒り狂っているはずだ。
自分に気があるかもしれないと少しでも思うなんて……なんて愚かだろう。
「っひ……」
人気のない公園の一角にやって来ると、そのままブランコに乗って蹲った。
直人に嫌われたダメージが大きすぎる。
家に帰る気力さえもない。
郁己はただ嗚咽を漏らし、静かに泣いた。
「はじめは、ただの同僚だった」
「!」
ふと頭上から声が聞こえて顔を上げる。
けれども視界は涙で揺れている。
薄暗いそこに人影があることしか判らない。
すると彼は手を伸ばし、親指の腹で涙が溜まっている目尻をぬぐった。
それはとても、優しい手つきで……。
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