四月に入ってすぐの打ち合わせの休憩中に電話が鳴った。かけてきたのは家の会社の秘書だ。昔からこの人の話はだいたい悪い話だと決まっていたし、今回もそうだった。 「最悪だ」 　電話を切っておもいのまま、生徒会室のいわゆるお誕生日席でそう嘆いた。 「どうしたんですか？」 　横に座っているのは副会長の高森だ。長髪で切れ長の目をした涼やかな見た目で少し潔癖の類いがある。 「今年度からお目付け役をよこすって、家から連絡をしてきた」 　詳しい話はまるでない。どういうタイミングなのか、誰なのか、期間はどれぐらいなのか、一切、お知らせがない。ただ事務的に一方的にそう知らされた。 「お目付けって。誰かが、会長が悪いことしてるってちくりでもした？」 　庶務の百山はハーフの天使系かわいい顔とは裏腹に机に足をのせてゲームをしながら片手間にきいた。 「俺、超がんばってると思うんだけど。たぐいまれにみる優秀な生徒会で会長だって噂じゃん。真面目で、優秀で、成績だっていいし。なにが、悪いのかって話しじゃん？」 「素行でしょう？」 高森はとても冷たくいってのけた。 「それ以外にないね！　会長は、嵐士ちゃんと比べたら隠れてるけど、そこそこ遊んでるしね。というかただちゃらい嵐士ちゃんと比べたら、紳士ぶってる分たちが悪い。というか遊んだこの中に手、出したらまずい子が実はいたんじゃ」 　その言葉には一瞬ひやりとする。走馬灯のように思い出が駆けめぐる。 「いや、みんないいこだった。揉め事なもないし、かなりつくしてるぜ？」 親衛隊のメンバーは児玉が入隊時にチェックしているはずだ。 「言わなくていいです」 高森が、俺を強くにらんだ。 「そこが、逆にサイテーな感じだよね。自分を正当化してるっていうか。普通は一人にしぼるんだよ。というか普通にみんな疑心暗鬼で水面下ではけり合いでしょ」 　今年の委員会は今までに比べると、男遊びをしない。性質上、顔と権力で選ばれる生徒会はやたらとちやほやされて、そのまま、男と遊ぶやつも多いそうだ。それが、高森は潔癖で、女とも遊ばない。百山は男もいけるらしいが、遊びはしない。一言も発っせずに座っている会計の鍬ケ谷という男も、硬派が服を着ているような奴だ。委員会で唯一、男遊びをするのが、書記の柏木嵐士という、今はお使いに出ている男だが、そいつは次元が違う遊び人なので一緒にはしないでほしい。ただ今は援護として、いてほしかった。 「お目付け役とは、どういう形で来るのでしょうね？　この学校はいいとこの子が多いですし、保護者でも入るのには難しい」 「俺が知るかよ」 　たまに面会はあるようだけど、それは悪いことをした生徒の親で、学校からの呼び出しだ。とてもいやな予感がしたが、柏木が返ってきたので、打ち合わせを再開した。