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5 使用人の来襲
「ごちそうさまでした。食器は僕が洗います」
薫が食べ終わって食器を洗い始めた。
「別に、家じゃないから、自分の分は自分でってことでいいよ」
「でも、ご飯はつくってもらいましたので、これぐらいはします」
皿をスポンジでなぞる様は丁寧だ。何事も丁寧な割に薫はどんくさい。みてると皿を割りやしないかとどきどきする。
「それに、どこであろうと、薫は武田家の使用人です」
薫は小さいころから、使用人として働いていたので、自分が使用人だという体を崩すことはなかった。それが嫌で、敬語もやめたらと言ったけど、薫がこの調子を崩すことはない。まぁ、でも、あの家には質の悪い主人がたくさんいるのだから、仕方がない。
「家は、かわらない?」
「薫は、武田様の家のことはあまり知りませんが、最近、由比様が、あまり家に帰ってないとは聞きました」
「そうか」
由比は三番目の兄貴だ。俺には三人の兄がいて、四人の兄弟、全員が腹違いだ。
武田の家は、古くからある技術メーカーだ。今は父が経営してはいるが、その父が問題で、仕事はできるが、そのほかのこと、特に女にはだらしない男だった。一人目二人目、三人目とつきつぎに離婚をくりかえし、その間も愛人がいたるところにいる。母と言われる人物はめまぐるしく変わっていったようだが、源氏の母が亡くなったのを最後に母なるものの存在はない。
三番目の兄は、二番目の兄が母だった時に作っていた愛人の子で、二番目と三番目の兄は仲がとても悪く、いつも争っている。そしたら他は仲がいいかと言われるとそんなことはなく、利害があれば話はするが、みんながみんな、後継者争いに、男の嫉妬で、たいへん仲が悪かった。だから、家族が揃うことなどないし、むしろ誰もいないので、ここの寮に入ってからはあまり帰ってない。
洗い物を終えた薫は、どこにいればいいのかわからずに、台所も前に立っている。あまり表情は動く方ではないけども、わかりやすい。
「おいで」
机の椅子をひいて薫に座らせた。
「ここに来るまでのこと聞かせてよ」
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