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4 使用人の来襲
「よろしく」
俺の方が薫の数倍も緊張してしまっている。現実から目をそらしたいけど、その人形みたい鼻筋はどうみても薫で、これは、現実だ。
たぶん同級生に比べたら幼く見える方だろうけど、成長期を見逃したから、一気に大人っぽくなった。一番最初にあった時、まだ小学校に上がる前で、薫は女のような幼さとか弱さで弟のように、守るべき存在だったのに。これでは、全然、そういう対象だ。
俺の部屋に送られてきたお目付け役。島津薫は武田家、使用人のいわくつきの養子だ。
「お前、飯は」
「えっと、まだですが」
「なら、つくる」
立ち上がろうとする薫をいなして、とりあえず、飯をつくった。薫の存在は気になるけど、料理していると少し冷静になった。この部屋にはそういう相手しか呼んだことがなかったからうろたえただけで、薫はそういう存在じゃない。薫をそういう目で見るなんてありえない。短く深呼吸した。
冷蔵庫の中に冷えてるご飯があるからチンして、冷凍の餃子も焼いてよこにできたての八宝菜を添えた。
薫が部屋にいるだけで、時に問題はない。
「いただきます」
「いただきます」
俺が手を会わすと薫も手を合わす。
おれが箸をつけるのをまってから薫の皿に箸を伸ばした。ご飯を食べる。細いけど、薫はよく食べた。それも、変わっていないようだ。
「味、いける?」
「おいしいです。源氏様は本当に何でもできますね。いつも自炊されているのですか?」
話しかけると、薫は一旦、箸を止める。食べながら話すのは行儀は悪いと言われてるのだろう。
「まぁ、半々で」
「薫にも教えて下さいね」
じっと薫が俺を見た。そうだ、なんどもこの言葉を言われた。なんでもマネしたがりなかわいい薫。弟のように育った、俺の唯一信頼できる家族。
「教える」
これはなにものでもない薫。さっきよこしまな目で見たのは見慣れなかったからで、もう昔の薫もどったから、大丈夫。
「なんでも、教えるよ」
小さく控えめに微笑んだ薫はあまりもかわいいと思うこの気持ちは、今の俺の薄汚れた気持ちじゃなくて、幼かった俺の薫の思う純粋な好意と一緒のはずだ。
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