11 / 33

1 学校はじまる

 今日は入学式である。一般生徒は休みだが、役員はあいさつに行かなくてはならない。  薫も朝から普通に家をでて、列に整列していた。 「で、どうするんですか?」  終わった直後、児玉に突っ込まれる。今日の入学式では見回りをうちと、鍬ヶ谷、百山の親衛隊に頼んでいた。生徒会の親衛隊は対象人物と合意の上で行事の手伝いにはいることが多い、というかもともとはお手伝いだったと聞いたことがある。  主に入学式で人の整理だけど、三つも親衛隊を出したのは、理由がある。  靴箱横、新聞部のエリアでいつもより多く積まれるのは校内ゴシップ誌、週刊天白だ。その一面は、会長極秘の恋人か? の見出しと記事。幸い俺の写真しか載っていないけど、次は薫の写真も載るだろう。週刊天白には毎度、頭をなやませてきたが個人的にはこれが過去最大に痛い。 「で、どうするんです?」 児玉はその新聞を読んでいる。  口元のほくろがあやしい、薄幸美人。地元の恋人か? 親公認の相手なのか、一人部屋の会長の部屋で同棲。熱烈なお相手は、あっちのテクニックにもメロメロ?!  ゲスすぎる記事にぶっ倒れそうになるが、どうしようもない。 「わかってると思うけど、お目付け役で送られてきた、使用人だから。使用人の養子で兄弟みたいなもんだから」 「会長の噂を聞いた親御さんが、どこかのせがれと問題起こすか、駆け落ちされるなら、身内当てがっとけ的なことでなく?」  小玉の声はするどい。 「ちげーよ」  建前の理由はそうかもしれないが、兄たちはむしろ俺が問題を起こしても、かけおちしてもよろこぶだろう。薫は自分自身を厄介払いするためだと言っていたが、他にも理由はある気がする。  児玉はため息をついて手帳を広げた。でてきたのは一枚の写真。 「薫じゃねーか」 あきらかに盗撮だった。さっきの入学式後で撮られたのか、胸元に入学祝いの花がある。 「もっとジャガイモかたまねぎみたいなのならよかったんですけどね。すごい美形か、かわいいとかでも、理想のカップル方面で持って行けたかもしれませんし」 「薫、かわいいだろ」 ぎっと小玉ににらまれた。 「悪くないですけど、こう、完璧でない感じが、リアルというか、愛人っぽい」  写真の中の薫は、物憂げにたち、どこか遠くを見ていた。幸の薄そうな、でも濁らなさそうな。 「お前こそ、よこしまな目で見てるだろ」 「見てません。とにかく、もう、巡回は廃止するとして、島津さん、このままほおっておくと危ないですよ」 「どうするか」  自分の人気はわかっている。親衛隊のメンバーは児玉が統率するとしても、いい顔をしないだろうし、メンバー外で危害を加える可能性もある。この学校では俺はアイドルと言ってかわらないし、そういう事件関係はこの学校では珍しくない。みんなもてあましすぎだ。 「薫にはいちおう危ないって言っておいた。人通りの多いところをあるいて、早くに、ノーマルな友人を作ってくように、危ない時は俺にすぐ連絡するように言った」 「一応、考えてはいたんですね。うちでも、武田家の使用人であることと、危なさそうなときは声をかけるようにともう一度念押ししておきます」そこで小玉は言葉を切った。「本当に恋人ではないんですよね」 「ちげーよ。使用人だって」 「好きの気持ちも?」 「ない、かわいい弟みたいなもんだ」 「わかりました。会長にも巡回をやめるってことと、使用人だってことを一度、集めてはなしてもらいますから。あと、巡回やめるなら、何か交流会を開いた方がいいですよ」 「わかった。考えとくから、考えといて」  頭が痛い話ばかりだが、親衛隊は行事毎で手伝だってもらってるし、大半は気のいいメンバーだ。それにいい思いもさせてもらっている。正直処女も散らしてきた。むげにはできないし、情もある。 「なにもないといいけどな」  親衛隊は児玉もいるし、おおむね何とかなるだろう。あとは、それ以外の人間の動向。薫に危害を加えるやつ、使用人とわかって、うちの家に取り入ろうとするやつ。それに兄の動向もわからない。高校二年、うまくやってきたけども、三年になって受験だというのに、なんということだ。  それでも、薫なんか来なければいいのにとは、思わなかった。まだ少し、戸惑いはあるけど、うれしいと思う。ここの寮に入ってから、家に戻らなかったのは自分なりの反抗だ。戻っても、誰にも歓迎されないという気持ちもあった。ただ今になって、薫の声変わりの過程を、成長の過程を見のがしてしまっていたことに気づいてそれが悔やまれた。この思いはブラコンだって、自分に言い聞かせた。

ともだちにシェアしよう!