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7 使用人の来襲
「大丈夫。俺は、風呂入ってくる。薫、風呂は?」
「さっき、シャワーにはいってきました」
「わかった。今日疲れたろ? 先に寝てていいから」
逃げるように部屋をでた。まずい。俺のこの学校にそまった変化と、薫の変身とで二重にまずいことになっている。いま、手を伸ばして髪をなでて、そのまま抱き寄せようとしていた。薫は弟みたいなものだし、俺も男はここにいる間だけの遊びだとわりきっている。ふってわいた熱みたいなのは、まやかしで、本当じゃない。小さいころからかわいがってきた、あんな無垢な存在をどうこうなんて、犯罪だ。
久しぶりに、しかも、そういうことでしか人を呼ばない部屋に来たから、悪いんだ。一度熱を冷まさないと。自分への疑念が渦巻くのを何度も自分で否定しながら風呂に向かった。
基本的に一人部屋の人間はその他学生にとっては偶像的な存在にあたり、混乱になるので、一回の大浴場は使わず、各階設置のシャワー室を使うことが多い。でもそれじゃあ、疲れがとれないということで、この階にだけ、小さい銭湯ほどの浴室がついていた。
そこに入ると、先客に書記の柏木がいた。珍しいことに、風紀の副委員長もいた。
「あっ、会長じゃん!きいたよ! 同室におしかけ女房きたんでしょ!」
言葉の選び方が最悪だ。
「お目付け役だから」
俺は低くそういうと二人の存在を無視して、からだをあらった。
二人が猥談で盛り上がっているのにも無視を決め込む。柏木は学校きっての下半身男で、その悪友が副委員長だ。彼は自分の親衛隊長のストーカーで有名だ。
風呂に入ろうと思っていたのに、これでははばかられる。それを察したのか柏木がわざとらしく場所を開けた。
「源氏、今日、のり悪くね? いつも猥談のって来るのに。押しかけ女房きたから?」
「だから違うって。普通に家のお手伝いが、進学してきただけだから」
父は息子たちの下関係も、そもそも成績なんかも興味がない。薫が送ってきたのは兄だ。薫もそういっていた。薫を送ってくることで、兄たちはたしかに目障りな存在が消え、多少、気持ちはすくかもしれないが、いい学校でいい成績をとれば、それは実績になり、逆に帰ってきやすくもなるのではないか。島流し以外の理由があるのだろうか。実家の権力争いがきな臭いことはうすうす感じている。誰かが薫を利用しようとしている?
「かわいそー。もう部屋によべないじゃん」
ぐるぐると家のきな臭いことをかんがえてるなかで頭の悪そうな柏木の声が響く。
「待って、考えようによっては、やりほうだいじゃん。かわいいの? あいて」
副委員長が下世話な質問をいかにも風紀のさわやかな顔で言い放った。
「おまえ、マジで、顔面間違えてうまれてきてるよな」
「質問に答えて」
「管理人がなんか色っぽいって、言ってたよ」
柏木が代わりに答えたけど、うれしくないし、管理人の評価にもイラっとする。俺にはかわいらしいって言っていたのに。
「うわー、みてー」
二人がうるさいので、浸からずに帰ろうかともおもったけと、それもしゃくだ。
「でも、今まで、やり放題だったわけじゃん? そいつとしないと、右手とお友だちな訳だけど、同室いると不便するよ?」
「そこまで、頻繁だったわけじゃねぇよ。よけいなおせわだ」
右手が友だちで何が悪い。たしかに、もう人を呼ぶのは無理でも、仕方がない。
たずねてくる男たちとの一晩は確かに、楽しく気持ちの良いものだけど、依存があるわけではない。
「同室がかわいかったら俺、即セフレにするわ」
「もう、お前黙れ」
嵐の顔をオケで殴った。
薫は、弟同然で、そもそも同じ家で暮らしていたのだから、同室でも問題ないはずだ。
また考え出した頭を何とかしようと、お湯につかる。あったかいお湯に頭をふやかせていると、脱衣所に影がみえた。扉はすりガラスなので、人がはいってきたのがわかる。ここの風呂は来るメンバーはだいたい決まってるが、見慣れない陰が写っている。その男は女みたいに前をかくして入ってくる。気にする奴はシャワーに行くので、風呂に来るメンバーではそういうやつは珍しい。
「って、ちょっとまて、おい!」
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