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1 ふたりでおでかけ
梅雨の頃には身の周りは落ち着きつつあった。
週に二回の親衛隊の集会でのツボ押しもまぁまぁ好評で、薫のまわりもだいぶ落ち着いたらしい。
寝る前に薫の手をマッサージする。最初は手だけだったけど、腕や足のマッサージもするようになった。これは俺がたんに凝り性だというのもあるけど、マッサージとして触ってる間はよこしまな気持ちは浮かばないからというのもある。こうして薫に触れることになれることで、自分の欲も少しづつ落ち着いてきた。このままゆっくりと沈めていけたならいい。
「源氏様、今度の休み一緒に出掛けませんか」
めずらしいお誘いだ。
「いいけど、どこか行きたい場所でもあるの?」
「いえ、ただ、外に出られましたし、学校の生活にもなれてきたので、出かけたいなと」
「あぁ、それなら、ちょっとでようか。行きたい場所考えといて」
いい傾向だ。むしろなぜいままで外に出ようと思わなかったのか。
「はい」
次の休みはすぐに来た。行きたい場所など、薫が決めれるはずもなく。夏物の服というか私服がないので、買い物と、映画にも行くことにした。予想していたが、薫は映画館に行ったことがない。
「映画は他のお手伝いさんがテレビで借りてきたものを流していたことはあったと思いますが、僕はあまり見たことがなかったです。ドラマもアニメも、あまり」
娯楽という娯楽に触れてこなかった。でもそれが苦痛ではなかった。と薫は付け加えた。薫は一般的には不遇の子供だけど、島津さんや周りのお手伝いさんに丁寧に扱われてきたからか、不満はないといつも話している。自分はむしろ恵まれているとも。もう少しひねてもいいのに、根っから善性が強く、まじめだ。野性味が強くのし上がるために他人を蹴散らすことをいとわない父からの、俺ら兄弟と、血がつながってるわけがないのに、兄たちは何を恐れてるのだろうかと、しみじみ思う。
「映画は面白そうなやつある?」
映画館の前でポスターをみる。薫は決めかねているようだったので携帯で一番レビューのよかったハリウッドのアドベンチャーものにしようとチケットをとった。
「今日は、映画を見て、服を見るんですか?」
「そうそう。門限が10時だからそれまでに帰ればいい。遠いからそんなに長いはできないけど、夜もぎりぎり食べれるかな」
さすがに街をでたら外の目は気にならない。そもそも同じ高校のやつらとは出くわさないように少し遠出もしてきた。10時までは学校の事も家のことも忘れて楽しもう。
「おもしろかったです」
遅めのティータイムの時間に昼を食べた。男二人なので普通に定食屋に入り、がっつり食べる。映画の感想を二人して言い合う。映画は面白かったし、薫は初めての映画館で音にも大きさにも驚いたようだった。
「あの、ヒロインかわいかったですね」
「えっ、そうだな」
どきりとした。たしかにヒロインはかわいかった。アジア系が少し入ってるのか幼い感じでアーモンド形のキャメル色の瞳は人懐っこい猫みたいだ。
「なにか、同い年ぐらいの女の子を久しぶりに見た気がしました」
「確かに」
若い女を久しぶりに見た気がする。町に出た時点で女の子はたくさん見かけたけど、すれ違う女性をいちいち異性として気にしない。ただスクリーンのヒロインは主人公を明らかに意識して、主人公もヒロインを意識していて、二人がカップルになった時に、なにかとてもひさしぶりに異性を意識した。自分はもともと女が好きだった。男は寮に入って、周りの雰囲気と、男の良さを教えられてからだ。もともと、貞操観念が低い方なんだろう。周りに女がいるならきっと男とは遊ばなかった。だから卒業したら、男遊びも卒業するだろうと思っていた。
「薫は、彼女作らないの?」
「武田家でお世話になってるうちはつくりません」
判で押したような答えなのに少し安心する。
「武田様は作らないのですか?」
「あの学校にいるうちはむずかしいな」
スクリーンのヒロインも街行く女性もかわいいけども、今は欲をもてあますのは目の前の男だけだ。きっとあの学校に行かなければ、そういう対象にならなかったのに。
「でも、おれは作らないかも。家があんなんだし、あんまり恋人とか家族とかにあこがれがないんだよ。だから、薫がもし、家族を作っても、たまには俺とあってな」
薫が女の子をかわいいというなら、やっぱり俺と薫のゴールはそこにしかないんだ。
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