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3 ふたりでおでかけ
ホテルも埋まりかけていたが、ビジネスでダブルだけ、一つとれた。ふだんがダブルベッドのようなものだから、別に大丈夫なはず。
寮の管理人さんに電話したら、仕方がないと了承をとれた。
濡れたので、さっさと風呂にはいる。
用意してあった寝間着を来てベッドに座った。後に入った薫がおそろいの寝間着で出てくる。ワンピースタイプでむき出しの脛がまぶしい。
「薫、ドライヤー、これ。こっちおいで」
自分が使っていたドライヤーをわたそうとして、少し思いつく。
「そこ座って」
自分の前に座らせて、髪を乾かした。細い髪でさらさらだ。
「ありがとうございます」
「悪かったな、帰れなくて」
「いいえ。今日は、楽しかったです」
確かに楽しかった。こうして外に出て遊ぶのは本当に久しぶりだ。会長になってから友達という友達はいないし、買い物も通販と朝市で足りる。
「俺も楽しかった。また遊びに行こう。買い物もいいけど、カラオケとか遊園地とかさ、いろいろ行こうぜ」
「ありがとうございます。薫は果報者です。ですが、源氏様受験勉強はよろしいのですか」
「心配しなくても、日々の勉強はしてるし、内心も試験もいいから推薦でもAOでもなんとかなるさ」
「もう、大学はお決めになられたんですか?」
「いや、まだ希望は、薬学か、ただ生命工学の分野もおもしろそうじゃないかって叔父が言ってて。難しいし、まぁ、受けてみてだめなら最終上の経済行くけど」
「叔父さんと連絡とられているんですね」
「叔父は比較的、親戚のなかで話しやすいしな。考えれば考えるほど、経済とかそういうのは兄貴らが優秀らしいから、俺いらないと思うんだよね。なら、技術を知ってるやつが会社にいた方がいいと思うし、俺もそっちの方が興味あるし。ただ、いま、長男次男と叔父三男でもめてるらしいから、俺の進路によってどっちかが有利になってパワーバランスがとかになると、そう安易にも決められなくて」
「そうなんですか」
進路相談にあたって父親と話したけど、父親はあまり息子の進路に興味はないので、好きにしろの一択だった。ただ、会社に入りたいなら、学歴次第で入る場所は用意するとのことだ。学歴が伴えばうちの会社はコネ入社は容易だ。入りたい部署にも入りやすい。能力が伴わないと即刻切られるらしいけど。
「社長の子息だからね、そういうの重要らしいよ。ただ父親はまるで興味ないみたいだけど。どっちに転ぼうが稼げるって自信があって、稼げれば内容はどうでもいいっていうね。ただ子世代は、意見が採用された方がいい思いできるし。けっこうどろどろみたい」
「むずかしいですね」
「そ。もう親の会社やめようかなとも思ったりさ」
入るのは簡単でも、めんどくさい。おもに兄弟の争いが。親の会社に入るにあたって、会社の概要のほかにいろいろと周辺の事情を聴きこみをしたら思ったよりいろんな愛憎があるみたいだ。
「やめるんですか」
「いや、どうだろ。ちっさいころから、なんとなく親の会社に入るんだって思ってたし」
父は別に会社を息子たちに継がせるとは話していない。父までは創業者がついできたけど、父はそういう人じゃないことを兄弟がみんな知ってる。だからこそ父母ともに家にいない抜け殻の家族で、父の会社もよその誰かにつがせるなんてと、兄たちは思ってる。自分こそが父に少しでも認められて寵愛を受けたいと、名誉を受けたいと、思ってるんだろう。きっと、否定するだろうけど。
「とりあえずは、会社に入るよ。就職活動しなくてすむしな。ただ、思ったより、どろどろしてるらしいから、嫌になってすぐやめるかも。薫もうちはやめとけ。薫は兄貴たちから嫌がられる」
薫の黒い髪を撫でた。昔はよくこの自分とは違う肌触りの髪をなでていた。
「薫が嫌われてるのは、俺のせいだ。俺は兄貴らと違って年がはなれてるから、兄貴たちが愛人とか母親とかでもめにもめてた時期をしらない。俺の母親は病気で亡くなった最期の妻で、平和な子供ってだけで兄貴らに嫌われてたのに、さらに、こんなかわいい使用人が遊び相手にいるんだから」
ひさしぶりに父と兄と話し、まわりの秘書とお手伝いさんにも聞き込みをした。そのうちに、家族の愛憎と感傷にふれてしまい、いたく疲れた。
「兄貴たちも、薫を目の敵にしないで、仲良くすればよかったのに、家に自分の味方がいるってどんなにうれしいことか、知らなかったんだ。だから、あんなぎすぎすして。でも、よかった。薫の時間が全部俺の時間になった。なぁ、俺ってひどいやつ?」
「いいえ」
「ありがと。今日は、つかれたし、もう寝よう」
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