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4 ふたりでおでかけ

電気をベッドサイドだけにして、布団をめくった。一枚の布団で寝るのはやはり少し勝手が違う分、心臓がはねるけど、今、何となくシリアスだったし、気持ちを静める。  薫はめくりあげた布団をじっと見ている。なにか自分から漏れてるだろうかと冷や汗が出そうになるのを押しとどめる。 「一緒のお布団に寝るのははじめてですね」 「あぁ、そういえば、そうだな」  今、なにか試されてるのだろうか。寝る場所はここしかないし、床に寝るとか、逆に意識してる感が出る。次の会話の糸口がつかめずにいると、薫がおれのそばまで寄ってくる。めくれてあらわになった俺の膝に薫の膝があたった。 「すこし、緊張します。なぜでしょう。いつも横で寝ているのに、同じ寝具だからでしょうか。……今日見た、映画、みたこともない長いキスをして、カーテンを閉めて、その翌日ヒーローは出ていきました。僕は、そういうことをしたことがないですし、しまったカーテンの中で何をしてるのかもわかりません。でも、源氏様はたくさんしたんでしょう。鈴木さんが会長は遊んでるし、自分も遊んでもらえるはずだったと話していました」  非難しているという口調ではない。ただ事実をのべてるといったへいたんな口調だ。あたってる膝があつい。 「いまは、してないけど。薫にも、しないから、安心して」 「なぜ、薫にはしないのですか? 薫は、平気です。源氏様を手伝えるのなら、なんでもできます」 「しないよ。兄弟で、家族だ」 「使用人と主人です。鶴様が、えっちしてあげないと、と。遊んでる中わりこむんだから、それぐらいしないとと話されて、薫は使用人として不十分ですか?」  やはり、鶴に吹き込まれていた。鶴は一番上の兄で、ここの卒業生でこの学校の悪習を良く知っている。しかも自分もあそんでいたはずなのに棚にあげて非難とは兄弟いじめに余念がない。鶴は甘いマスクをもってるが、心の中はドス黒い。薫の自分を見上げる目はあまりにも純粋で、鶴の邪悪さの意図が分かっていない。 「それは使用人のすることじゃないよ。契約に入ってない。もし本当にそういう仕事なら、ちゃんと、契約書を更新しないといけないと思う。そうしても、法律上、さいごまではできない。薫は、鶴に遊ばれてるんだ。遊ばれて、汚されてる。本当に仕事のうちなのかちゃんと見定めないと駄目だ」 そっと膝を離した。出来るだけ落ち着いた声で、ゆっくりと薫を諭す。 「そういうことは、誰かにそそのかされてじゃなくて、ちゃんと合意の上でしないと。薫がこの人になら、自分を見せてもいいって人にしかそういうことをしたらダメだ」 「でも、源氏様は、遊んでたって」 「まぁ、遊んでたし、クズの言い分だけど、双方の合意の上で、彼らは俺に身を任せたし、俺はそれに答えたつもりで、誰かの意思じゃないよ」 「僕が、ただの僕がしてほしいと言ったら、してくれるのですか?」 「それがどういうことかわかってんの?」 「わからないんです。鶴様にはそれが仕事と言われて、でも、実際にはそのお役目には立てず、僕以外の人たちは、それをおこなっているのに、僕はしなくて、いいのか」 薫はすっと目をそらした。白い肌がベッドサイドのオレンジの光に照らされてなまめかしい。いつの間にか服がはだけて薄い胸板が見えている。 「僕は、源氏様にとって興味のない人間なのかもしれない」 「薫……」 そんなことは、ない。好きだ。かわいい。愛しい。今すぐにでも犯せる。でも、この子は知らないのだ。男というものも、男同士のリスクも、今簡単につないだ関係はきっと破たんする。  薫は男も知らないが、女も知らない。何も知らないこの子をそのまま自分というかごにしまうのは怖い。常識の世界を見せずにかごに入れて、いつかきっと、外の世界を知った時、かごの中にはいられない。そうなるなら、かごにはいれず、一定の距離のまま、横をあるいたほうがいい。 「そうじゃないよ、薫。そういうことをしないからって、興味がないわけじゃない。薫のこと、むかしからかわいくて仕方がないし、大好きだ。仲のいい兄弟になりたいと思ってるだから、仕事とか、お役目とかそういうの考えじゃなくて、それでもずっと一緒の関係、それじゃダメ?」 「薫は」  薫は何かを言いたそうに、口をうごかす。きゅっと布団のシーツをつかむけど、やがて力を緩めた。 「薫は」 「寝よう、一緒に横になって、ちいさい兄弟みたいに一緒に、寝よう」 薫の腕をひいた。薫のきれいな黒髪からシャンプーのにおいがする。 薫を横にして布団をかぶった。薫の腕をはなし、手を握った。  すぐ横には薫の顔がある。薫は俺を見てる。厚い唇がぽってりとして、おいしそうだ。 むくむくと欲望が出てくる。どちらかというと男は男っぽいほうが好みだ。でもこだわりがないから、どんなんでも抱ける。この幼さをのこしてるのに、いやに色っぽい薫は好みじゃない。それでも、こんなにかわいくて、愛しい。でも、それはそれ。俺は、この関係を壊したくない。一時の快楽に身を任せて、薫という兄弟を、家族を手放したくない。  俺は冷静なふりをして薫の頭をなでた。  小さい頃から、面倒を見て、一緒に遊んだかわいい弟のような存在。たぶん俺は、内心仲のいい兄弟にあこがれていたのだ。 「薫、しんぱいしなくても、薫のこと、ずっと大切に思ってるから」  薫のオデコをかきあげてつるりとしたそこにキスをした。薫は目をぎゅっとつむってから、目をひろげる。そしてとてもかわいらしく笑った。 「僕、源氏様にキスされるのだいすきです」 「そうか」 「はい」  ちいさいころはよくおでこにキスをしていた。薫は目に入れても痛くいぐらいかわいかった。  欲望のない親愛のキス。それで十分だ。 「おやすみ、薫」 「おやすみなさい」

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