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1 うちの子がかわいい

「あ、源氏様ありがとうございます」 薫が風呂から戻ってきた。今日は俺が洗濯の当番で洗濯物を畳んでいた。最初は薫が何から何までしていた家事もやっと最近、分担になってきている。 「源氏様はやはり器用ですね。薫が畳むとすごく時間がかかるので」 「そうか? そんなに難しいことじゃないよ。薫は丁寧にしてくれるから、嬉しいよ」 「ありがとうございます」 薫が照れたように笑うので、俺は薫の頭を撫でる。そしたらもっとかわいく笑うもので、俺はそのまま薫を抱きしめようとして、 「あー、ご飯にしようか」 「はい」 変にのばした手をぱちんと柄にもないオーバーリアクションに変換して言った。 「うちの子がかわいすぎて、困る」 俺は頭を抱えていた。 「そうですか」 児玉はぞんざいな態度で返事をした。 「恋愛感情はないと言い張ってたのはどこの誰だか、僕以外に絶対言わないでくださいよ」 「はいはい」 近頃の薫はかわいさが余るところをしらない。  なにかお礼をいうと髪を触られるのを待つし、触れると自分から手に頭を預けるし、おでこにチューをあきらかに待っている。かわいい。こちらに来てからどこかぴんと張りつめて他人行儀だったけど、昔は、俺の前では犬のような存在だった。俺がすきでかわいがってほしくて、ほめてほしくてなんでもするような。それで、おれもそんな薫がかわいくて、過剰にほめる。  髪を撫でて、顎と首をなでておでこや髪や瞼にきすをして。目が合うと薫は大きな目で俺を見て微笑む。  そうだ、昔はかわいかっただけだったのに、かわいいと思うほかに、自分の理性が燃やされていくのを感じた。あの夜からだろうか、薫は自分をかわいがる俺を受け入れて、それはうれしいことなのに、俺が、その薫についていけてなかった。薫のかわいさを甘く見ていた。こんなにもかわいいと思うのに、なんで、犯したいという思いが同居できてしまうんだろう。あんなに、決心したのに。  かわいがってるだけのつもりが、このままだと暴発する。薫は、おれをやさしい主人、兄として、あんなになついているのだから、それを壊すわけにはいかなおい。 「まぁ、あと実質半年ぐらいのがまんですからね。男同士にとって卒業がいいのかわるいのかはわかりませんが、在校中はぼろは出さないでくださいよ」 児玉は溜め息混じりにいった。  いろいろヤバい気はしても、卒業したら同室も解消だ。その二年後の薫の卒業で、薫は家を出る可能性が高い。前は別れてしまうことに不安があったけども、ブランクがあっても仲を取り戻しつつある今は少し希望が持てる。 「児玉のとこは大丈夫なのか?」 「余計なお世話です。僕たちは二人そろって上ですので、このまま互いに勘違いしたまま一緒にすごしますよ」 「めずらしくのろけだね?」 「まぁ、そんな僕たちとちがって、会長は都会の外部受けるんでしょ。疎遠になるのでは」 「距離がちかくても、遠くても、薫をここに残すならそうそう会えないよ。。薫は上を受けないだろうから。薫が良ければ俺のそばによぶさ」 いささか児玉はびっくりした目でおれをみた。 「あんがい熱いんですね。一晩限りのプレイボーイだったのに」 「俺は熱いよ。一晩も愛たっぷりにすごした。薫は一晩じゃないし、恋人でもないけど、守らないといけない家族だから」 家族と声に出す。まだその言葉は嘘っぽく聞こえなくて安心する。 「そんなこと言って。外部受験落ちたらお笑いですけど。難しいんでしょ?」 「別に、それは大丈夫」  少々難しめの私立の生物工学受験は10月半ばまで、まだ数か月ある。今のところA判定だし、なんとかなるだろう。

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