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1 進路問題
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
家にいた薫は、映画を見ていた。さすがに友人も少しできたようで、娯楽をゆっくり吸収してる。こういうところを見るとこっちにきてよかったなとおもう。
夏休みが間近に迫ってテストの結果も模試の結果も上々だった。生徒会の仕事も上半期までで、たぶん次も生徒会をやるだろうメンバーに引き継ぎをしている。
「薫は、ギリギリだなぁ」
薫は、試験結果をひろげていた。もともとこんな学校に来るわけじゃなく、試験は受けてきたらしいが、入試はぎりぎりだったと聞いている。
「すみません」
「留年とかしなければ、別にいいと思うよ。勉強だけできてもね」
勉強だけできても、人間的にどうしようもないやつはいっぱいいる。俺の兄たちとか。
兄たちのことを思い出すとため息が出た。
「薫は休みは戻るのか?」
「戻ります。お盆までの期間は忙しいのでお手伝いに行こうかと思っています」
そうだ、いつもいろんなところから挨拶が来くので、年末年始とお盆は、忙しい。
「えらいな」
「いえ。源氏様は受験ですが、もどられるのですか?」
「戻らないって言いたいけど、書類関係書いてもらうついでに帰ろうと思ってる。なんか。ちょっと、きな臭いって聞いたから偵察もしたいし」
以前戻った時に聞いた話も、叔父から漏れ聞く話もなにやらきな臭い、もう一度情報収集をしておきたい。特に兄たちはなにか隠していることがあるんじゃないかという気がする。
「そうですか」
「薫も兄たちに好かれてないし、俺の味方だと思われてるから、あんまりかかわるなよ」
「はい」
薫はいつものようにきれいな発音の返事をした。
「忙しいところすまんな」
「いや、こちらこそすみません」
叔父さんは人懐っこそうに笑う。
夏休みになっていた。家に戻ることもなく、主に勉強ばかりの毎日を過ごしていたけど、叔父さんから連絡があったので家に戻ってきていた。
「どうだ受かりそうか」
「そうですね、たぶん」
叔父は小さい頃からよくして貰っていた。ギスギスした一族の中でおたがいうまがあっている。
「源が、こっちに来てくれたら嬉しい。ものを売るには、やっぱり技術を知らないと。商社はもしもの時に弱い。売るものを何も知らないじゃあ、なめられるしな」
叔父はうんうんと、頷きながら喜びをあらわにした。
「あまり、対立構造の中に居れれらるのも困りものですけどね」
「お前の父親がもうちょっと息子たちの動向を気にしてくれるといいんだけど」
「すみません」
「そっちは何も変わりないか? いいかたは悪いがお前が行く大学でお前がこっちに着くとういう表明になってしまう。向こうさんはいま気が気でないに違いない」
一応父には事前連絡で第一志望と、滑り止めとを話している。第一志望は外部で、滑り止めとは上だ。
「そんなにもですか?」
「会社を商社の方向にかじ取りするのか、メーカーに重きを置くのか、今が瀬戸際だ。完全に対立方向になっている。鶴が躍起になっていてな。なにかあったらすぐに連絡しろよ」
「受験日に事故にでも遭うんですかね」
苦笑いをしてみたけど、あまり笑えない。
案の定、長男、鶴は今、躍起になっているようだ。叔父も割と真剣に、気をつけろよとはなした。
叔父と別れて、家路につく。
家に帰るのは気が全然進まない。それでも、こうした事前情報をてにしてしまっては、さらに、会わないわけにはいかないだろう。会ったからって手の内を見せてくれる人じゃないが。
今年の盆は次男も三男も帰らないらしいから、取りあえず、予定を組んでいる父とは他になんとか長男にと会わないといけない。
久しぶりの自宅は相変わらず大きい。いつの時代にたったのか知らないけど、見た目は純和風でテレビに出てくる極道の家のみたいな見た目をしている。
門から入るとすかさず、離れに住む執事がでてきた。
「久しぶりですね、島津さん」
「久しぶりです。源氏様。今日はお父様とのご歓談でしたね。
「そうそう。あのさ、鶴の予定しらない?」
「鶴様なら明日まで本家で泊まりです」
島津は鶴の予定を把握していたようですぐに答えてくれた。お盆前といえ家にいるのは珍しい。
「ちょうどいい」
「源氏様も鶴様とお話ですか?」
島津さんの顔はあまり浮かばない。嫌な予感がした。
「俺も、とは?」
俺がそう聞くのを待っていたという風に島津は語りだす。
「薫が鶴様とお話があると……、珍しいことです。なにもないといいのですが、……口が滑りました」
自分から鶴の予定をいうのははばかれたけど、薫の保護者としてなにか思うところがあったのだろう。
「何の用事かはきいてないんだな」
「はい」
きな臭い。薫と鶴なんて一番縁が遠い組み合わせだ。だけど、そもそも薫がうちの学校に来たのはどの兄かの仕業で、可能性が高いのは鶴だ。鶴は何を思って薫を学校に来させたのか、最初の疑問が浮かぶ。
「鶴と話し合いの時間をもうけてくれ」
「承知しました」
島津は大きくうなづいた。
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