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2 進路問題

 予定通りに父に会った。母屋の迷路のような間取りの奥にいる父は相変わらず息子の進路に興味はないので書類はサクサク進む。普段は会社の取締役として重いオーラを出している父だけど、今日はオフなのかいくらか気楽で普段よりかは話しかけやすい雰囲気だった。 「なにか、みんなきな臭いみたいだけど知ってる?」 「あぁ、そうだな。やる気があるのは結構だが、みなやり過ぎるところがあるから」 「俺に飛び火しそうなんだけど」 「だからといって誰かの味方をしたら余計に火を見る。さすがに警察沙汰になれば私も動けるが」  父の言い分は確かで、実質、自分でどうにかしなさいということだ。まぁ、わかっていた。父に息子たちは愛憎劇を広げているけど、いまいち父親はそういうプライベートな感情を持っていることを把握してないし、そういう面は疎いので、父から息子たちにアクションをかけるのは無理だろうとは思っていた。 「俺は兄達みたいに家にがむしゃらにはならないよ」 「すきにしろ」 静かにいった父の声色は、投げ出した風でも、慈愛に満ちてもない。 「わかった」  部屋をでた。まぁ、父親はどうでもいい。問題は兄達というか、鶴のことだ。  島津から連絡が入り今日中に時間をとれたので時間になるのを待って鶴の元に行く。  鶴はもう独り立ちしてるけど、実家にも部屋がある。兄の部屋に通される。久しぶりに会った兄は甘いマスクなのに、目だけがギラギラとしていて雰囲気は怖い。働き盛りの男はこういうものなのだろうか。 「久しぶり」 「あぁ、ほんとにな。なにか用事か」 「いや、進路のことで、報告というか」 「わざわざ来てくれたんだな」  鶴は兄としてそういうコミニケーションはできるという形みたいに笑顔を作った。  俺はこの本心が全く顔に出ないすべての表情筋をコントロールしている鶴の顔が昔からすぐにわかった。兄弟の仲でも鶴のことを最も信じてない。それでも会社ではいい人らしいから人間は信じられない。 「お前は、叔父さんと由比につくんだろ? 俺としては、どうにか、こっちに来てくれないかとおもってるけど」 早くも情報は手に入れてるらしい。 「うーん、でも興味あるのは技術だし、兄さんには悪いけど、俺の進路で軋轢が生まれるならなおさら、俺は、俺のしたいことをしたいかな。まぁ、落ちたら上に行くしかないからさ、それが義理立てだと思うんだけど」 「第一志望を落ちた男なんて願い下げだよ。わかった。しかたない」 「すまねーな」  ひとことあやまったけど鶴はギラギラとした目でうわべだけの挨拶をした。  廊下を歩きながら考える。鶴は負けることが大っ嫌いで本当に諦めてくれるとは思わない。なにか懐柔があるかと思ったけどそれもない。それがとても怪しい。絶対になにかしてくる、それがないなら、もうしているはずだ。  外を眺めた。廊下は縁側になっていてガラス戸が空いて風が吹き抜ける。よくこの庭で薫と遊んだ。  薫はどこにいるだろう。兄との関係に疲れたとき俺は決まって薫を探していた。  通じたのか、離れから薫がでてきた。  薫はぼーっと空を見上げている。 「薫」 薫はふりかえる。 「源氏様、いらしてたのですね」 「仕事中?」 「いいえ、今は、お暇をもらっています。」  薫は俺を見ない。この庭ではいつも俺を見つけては犬のように近づいてきたのに。いつもは大きい瞳が見えるのに、今はつむじが見える。様子がおかしい。 「お前、最近、鶴とあった?」 「鶴様ですか?」  薫の頭を撫でる。いつもは俺の手に預ける頭は固まったままだ。 「なにも、ありません」 薫は目を伏せながら言った。

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