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第一章・5話

 空の家庭は、貧しい。  彼が体を売ってまで金銭を稼ぐのは、弟妹の給食費や教材費のためだった。  父親が多額の借金を抱えての、放浪生活。  借金取りに居場所が見つかると、その日のうちに即夜逃げだ。  友達など、できる暇もなかった。 「神くん、いい人だな」  彼の差し伸べてくれた手。  華やかな拍手。 「友達に、なってくれるかな」  またピアノを聴きたいと、言ってくれた。  ピアノをやっていて、良かった。  空にピアノを与えたのは、音楽教師だった。  不遇な空が、少しでも心慰められるようにと、ピアノ曲のCDを聴かせた。  音楽室のピアノも自由に弾いていい、と許したところ、驚くべきことにたった今聴いた曲を演奏し始めたのだ。 「小室くん、ピアノ習ってたの?」 「ううん。今日が初めて」  何事にも人より劣るΩだが、時折たった一方向にのみ突出した才能を示す人間が、ごく稀にいると言う。  空は、まさにその稀有なΩだったのだ。  ピアノは空を慰め、雅臣との懸け橋となった。  しかし、運命はすぐに二人を引き裂きにかかった。

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