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第一章・16話
「これなら、最終日の演奏会も期待できそうだ」
「演奏会。誰の?」
「空くんだよ。君はこのドイツで、華々しくデビューを飾るんだ!」
「う、嘘ッ!」
途端に萎れてしまった、空の心だ。
「演奏会、って大勢の人の前で弾くんだろ? やったこと、ないよ」
大丈夫。自信を持って。
そんな雅臣の声も、慰めにしか聞こえない。
「まぁ、第一はこの旅行を楽しむことだから。失敗もオーライ、くらいの気持ちでいなよ」
「他人事だと思って~」
空は、ぷぅと頬を膨らませた。
それでも、旅行は楽しかった。
著名なピアニストの演奏会を聴きに行ったり、オペラの観劇をしたり。
そして、美しい所をいろいろと訪問した。
古城、自然公園、石畳に並ぶ露店の数々。
どれもが、空の心を潤した。
紅葉の川辺を、雅臣と散策した。
「夕日がきれいだね」
「……」
「雅臣くん?」
「空の方が、綺麗だ」
え?
今、何て?
「キスして、いい?」
「え、あ。あ、あ……」
そっと、雅臣の唇が空に重なった。
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