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第二章・9話

 結果、涼真は3日間の残業を被った。  例のデザインに、手を加えるためだ。  そのうちの2日は、会社に泊まった。 「すみません、武藤さん。すみません」  ひたすら謝る瑞が、涼真には痛々しい。 「いいんだって、気にしないで。白河くんは、どっちかといえば被害者なんだから」  案の定、昼休みには甘いお菓子をせっせと運ぶ瑞だ。 「これも、夜中に作ったの?」 「武藤さんが頑張っているのに、僕だけ寝るなんて」  堅物だなぁ、と笑いつつカップケーキをかじった。  甘い。  けれど、どこか塩っぱいスウィーツ。  瑞の涙が、隠し味になっているせいだ。  それが悲しい涼真は、ひとつ瑞に提案をした。 「ね、俺にご褒美くれないかな?」 「ご褒美?」 「3日間がんばった俺に、ご褒美を。そうだな、チェリーパイが食べたい」 「お安い御用ですが、どうして……」  ただし、と涼真は条件を付けた。 「今度の休日、日中に。俺のことだけを考えて作ってよ」  頬を染めた瑞に、慌てて補足を加えた。 「いや、その! 変な意味じゃなくって! ストレス発散じゃないお菓子作り、ってこと!」 「あ……」  言われて初めて、気が付いた。  僕は、お菓子作りが大好きだったはず。  それが、いつからストレスのはけ口になってしまったんだろう。 「解りました」  それだけ言うのが、精いっぱいだった。  涼真の笑顔が、まぶしかった。

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