53 / 93

第三章・12話

「でも」  あの仕打ちは、いくらなんでもひどい、と思った。  稀一さんのことは、愛している。  今でも。  だからこそ……。  蒼生は一つの決意を胸に、友人の一人に電話を掛けた。  同じテニスサークルに所属する、同じΩの親友だ。 「あのさ、僕、妊娠しちゃったみたいなんだ」 『嘘! マジ!?』 「でもね、病院に行ってみたら、想像妊娠だった、ってオチ」 『何だよ、もう。驚かすなよ』 「それで、頼みがあるんだけど」  蒼生は友人に、その話をサークル内で広めてほしい、と頼んだ。 『何で? お前が笑いものになるだけじゃん』 「いいんだ。やがて、僕の利になって返って来るから」 『……? そんなら、いいけど』  これでよし。  蒼生は電話を切って、口の端を上げた。  稀一さん、覚悟はいいね?  あなたは、僕にとっていつまでたっても手の届かない人だった。  恋人になっても、それは同じだった。  そんな稀一さんに、僕の場所まで降りてきてもらうよ。  翌日を楽しみに、蒼生は眠りに就いた。

ともだちにシェアしよう!