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第三章・14話

 稀一はやはり、高級ホテルで豪華なディナーをプレゼントしてきた。  会話はテニスや映画の話題。  稀一がゼミで教授をやり込めた自慢話も、時折混じった。  蒼生は、いつものようにそれらを大人しく聞いていた。  いつもの蒼生を、演じていた。  食事が終わり、誘われるままホテルの部屋へ。  展望台のように大きなガラスの向こうには、月が昇っていた。 「月明かりの下だと、何だか素直になれるよな」  稀一は、あえてその言葉を口にした。  以前、蒼生に告白した時の言葉。  あの頃に戻って、やり直す気でいた。 「もう一度、付き合わないか。俺と」  そう来ると思った。  蒼生は、あまりに事が思い通りに運ぶので、おかしくなった。 「捨てた玩具が、惜しくなりましたか?」  挑むような蒼生の言葉に、稀一は少々面食らった。 「よりを戻してもいいけど、条件があります」 「何だか今夜は、蒼生らしくないな」  そうですか?   蒼生は、飄々と言ってのけた。 「これが、僕です。椿 蒼生と言う人間ですよ。それでも良ければ、またお付き合いしましょう」 「……条件、とは?」  従順なΩとばかり思っていた蒼生が、まるで高潔なαのように揺らしてくる。  稀一は、そんな姿に興味を持った。  一層、蒼生のことをまた欲しくなった。

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