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第三章・15話
簡単な事です、と蒼生は言った。
「一言、僕に謝ってください」
「謝る?」
稀一は、きょとんとした。
謝る、なんて。
俺は蒼生に、何か謝るようなことをしたか!?
「ほら、ね。やっぱり自覚してない」
呆れたような、蒼生の表情。
「妊娠した、って打ち明けた時の稀一さんの言動、思い出してください」
あの時は……。
蒼生の不注意を、非難した。
避妊を怠った蒼生を叱り、浮気を疑った。
「よく考えもせず、堕ろせ、とも言いましたよね」
世間一般では、それは最低の反応です、と蒼生は笑った。
「でもね、悲しかったけど嬉しくもあったんです。完全無欠の稀一さんが、そんな最低男だった、ってこと」
「最低男、だと」
「稀一さんは、いつだって人の上に、僕の上に立っていた。それがあの出来事で、下まで転がり落ちてきてくれた」
稀一さんは、僕と同じ人間なんです。
蒼生の言い分を、稀一は黙って聞いていた。
すると、手切れ金に中絶費用を出してやる、と言ったことも最低男のセリフなのか。
「世間一般では、か」
稀一は静かにそう言った。
「俺は、最低男、か」
そう言って、静かに蒼生の手を取った。
「俺の選んだ蒼生が言うのなら、そうなんだろう」
「稀一さん」
「すまなかった」
そして稀一は、そっと蒼生の手の甲にキスをした。
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