62 / 93

第四章・2話

 もう一つ、大事なものを忘れてはならない都だ。  クラスの男子で一番背が低く、痩せてはいるが、Ωである都は最近体が火照ることがある。 「そろそろ、発情しそうな気がする……」  保健体育で習ったところによると、初めての発情を迎えると、後は定期的に発情期が訪れるという。 『そのまま放置しておくと、Ωフェロモンで性欲を抑えられなくなります』  そうならないためにも、発情抑制剤を飲んでフェロモンを抑えなければいけない。 「お薬、高いなあ。ネットで、ジェネリック売ってないかな?」  比較的安い薬を飲んで何とかごまかしつつ、都は便利屋の毎日を送っていた。  しかし、小銭稼ぎだけでは到底生活は成り立たない。  日々の暮らしは何とかなるが、電気やガス、水道などの公共料金の支払いには苦労する。  そこで……。 「なあ、夏目。ホントに一回5千円でいいのか?」 「いいよ。人が来るとマズいから、さっさと済ませちゃおうよ」  そう言って、都は制服のベルトを緩めた。  彼は、体まで売るようになってしまったのだ。  最初は、冗談から始まったことだった。 「便利屋って、何でもしてくれるんだろ?」 「そうだよ。だから、遠慮せず何でも言ってよ」 「性欲処理も?」  そこで数名の友人たちは笑ってそいつを叩いたが、都は彼の目が一瞬本気だったことを見抜いていた。  だから、昼休みに呼び出した。

ともだちにシェアしよう!