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第四章・2話
もう一つ、大事なものを忘れてはならない都だ。
クラスの男子で一番背が低く、痩せてはいるが、Ωである都は最近体が火照ることがある。
「そろそろ、発情しそうな気がする……」
保健体育で習ったところによると、初めての発情を迎えると、後は定期的に発情期が訪れるという。
『そのまま放置しておくと、Ωフェロモンで性欲を抑えられなくなります』
そうならないためにも、発情抑制剤を飲んでフェロモンを抑えなければいけない。
「お薬、高いなあ。ネットで、ジェネリック売ってないかな?」
比較的安い薬を飲んで何とかごまかしつつ、都は便利屋の毎日を送っていた。
しかし、小銭稼ぎだけでは到底生活は成り立たない。
日々の暮らしは何とかなるが、電気やガス、水道などの公共料金の支払いには苦労する。
そこで……。
「なあ、夏目。ホントに一回5千円でいいのか?」
「いいよ。人が来るとマズいから、さっさと済ませちゃおうよ」
そう言って、都は制服のベルトを緩めた。
彼は、体まで売るようになってしまったのだ。
最初は、冗談から始まったことだった。
「便利屋って、何でもしてくれるんだろ?」
「そうだよ。だから、遠慮せず何でも言ってよ」
「性欲処理も?」
そこで数名の友人たちは笑ってそいつを叩いたが、都は彼の目が一瞬本気だったことを見抜いていた。
だから、昼休みに呼び出した。
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