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第四章・15話

「都、大丈夫か?」 「え? 何で?」 「あんな卑怯者に……、好き放題言われて。一発殴った方がよかったかな」 「ぼ、暴力はよそうよ」  それより、と都は雄翔に恐る恐る訊いた。 「僕、便利屋クビになったりする?」 「なぜ?」 「だって……、僕は一回5千円で身体売ってたんだよ。嫌にならない?」  ならないよ、と雄翔は真っ直ぐな目で都を見てくれた。 「都は、何も悪くない。悪いのは、君の弱みに付け込んで買春してた奴らだ」 「雄翔」 「さ、もう帰ろう。何か奢るよ、何がいい?」 「マンゴージュース」  ぐすぐすと鼻をすする都の手を取って、雄翔は外へ出た。 「あれっ? 雨だ」 「予報では、明日からのはずだったけどな」  雄翔は、スマホを手にした。  迎えの車を寄こすように、電話しようとしたのだ。  だが、都はしとしとと雨の降る中を、傘も無しに歩いてゆく。 「おい、都」 「何だか、雨に濡れていたい気分」  まるで、国語のテキストに載っていた小説だ。  口の端を上げると、雄翔も彼の隣に続いた。 「主人公の気持ちは?」 「雨で自分の過去を流したいんだ」  お金目当てに、身体を売った。  挙句に、二人の男性の気持ちを傷つけた。  一人は、あの男子生徒。  もう一人は、雄翔。 「大丈夫、雨で嫌なことはきれいに流れるさ」  握ってくれる大きな手が、温かい。  都は雄翔と一緒に、雨に濡れながら歩いた。  心の澱を流しながら、歩いた。

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