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第四章・19話

「お風呂、ありがとう」 「はい、部屋着。これで、大丈夫かな」  都は湯上りの雄翔に、父にと買っておいたコットンの上下を渡した。 「いつか、帰って来るんじゃないか、って。まだ諦めきれないでいるんだ、僕」 「いいのか? お父さんの服を、俺が着ても」 「いいよ、雄翔なら」  特別な服を、雄翔は特別な思いで身につけた。  特別なはずなのに、安易な言葉しか出て来なかった。 「お父さん、帰って来るといいな」 「うん。ありがと」  それからの都は、妙にはしゃいだ様子で雄翔を自室へ招き入れた。 「たまたま昨日、掃除してたんだ。よかったぁ」 「都の部屋、グリーンがいっぱい。植物、好きなんだ?」 「世話すればするほど、応えてくれるからね」  はしゃいでサボテンの話なんかしながらも、都の胸は弾けそうに鳴っていた。  どうしよう。  部屋まで、招いちゃった。  ベッド、一つしかないのに!  飽きもせず、都のお喋りを聞いてくれる雄翔の目は、優しかった。 (とても今から、僕を抱くようには見えない)  試しに都は、クッションから立ち上がってベッドに腰かけてみた。  ベッドの上の都を見る雄翔の目つきが、少し変わった。  そして、すっと優雅な所作で立ち上がると、都の隣に掛けてきた。 「……!」 (あ、あの。あわ、あわ、はわわ……)  一瞬にして身を固くした都。  雄翔は、そんな都に一言だけ声をかけた。 「キス、してもいい?」 「え……」 (もうダメ。追い詰められてる、僕)  花火の時は、自然にキスできた。  キスなら。  キスだけなら……! 「いいよ」 「ありがとう」  雄翔は、都の肩を抱くとそっと唇を合わせてきた。

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