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聖霊達の声?
「ふっ……」
やっと男に応えてもらえた。鼻を鳴らされ、小馬鹿にされただけでも、無表情で対峙されるよりは増しだろう。アスカはフードの奥で、そう独りごちた。
男はネットで申し込まず、昔風に電話で予約を入れた。この国のヴァンパイアは冷徹で、表情が豊かとは言い難い。見目麗しさで許されているようだが、人間らしい気遣いは皆無と言える。そのせいか傲慢にも映るのだが、電話口で聞いた男の声は、それはそれは紳士的な優しさを秘めていた。
渋さの中にも、甘さのある官能的な響きだった。女をたぶらかす時の声だったのだろう。気付くべきだったが、気付きようのないことでもある。人間外種に登録変更するような人間と、ヴァンパイアがかかわることは、万に一つも起こり得ない。端から疑いようのないことだった。
特殊能力の『霊媒』も役に立たない。アスカには万物に宿る精霊達の声が聞こえるが、彼らは気紛れで、肝心なことを教えてくれた試しがなかった。
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